ローコストでテレマティクスの恩恵を
- Alexandre Brel氏インタビュー
欧米を中心に爆発的な広がりを見せている「テレマティクス保険」。車載デバイス(機器)を利用して「ドライバーがどういう運転をしているのか」を逐一データにとる、というこの保険は、2020年にはアメリカやヨーロッパでは全体の約4分の1を占めるとも言われています。
昨年、国交省が安全運転の促進、事故の削減のための大切なテーマとして掲げてからというもの、日本でも徐々に認知が高まってきました。
フランスを発祥の地とするAXAグループは、まさにテレマティクス保険の隆盛の渦中にいます。
そこで、今回はAXAグループでデータサイエンティストとして活躍するAlexandre Brel(アレクサンドル ブレル)氏に、海外でのテレマティクス保険の事情や、これからの展望についてお話を伺いました。
2015/12/24インタビュー
テレマティクス保険は海外でどのように普及しているのでしょうか?
ヨーロッパでテレマティクス保険は急速に普及している状況です。特に、若年層でその動きが顕著ですね。
テレマティクス保険は「運転者がいいドライバーなのか、悪いドライバーなのか」を判断することが可能です。ヨーロッパでは若者の自動車保険料が高く、年間で8000ユーロ(約109万円)に上ることもありますので、加速度やブレーキなどの運転特性に応じて保険料が割引されるテレマティクス保険は若者にとって魅力的です。
AXAグループでは、テレマティクス保険に加入すると最大で50%まで保険料が割引されるようになっています。
「いいドライバーなのか、悪いドライバーなのか」という見極めは、どのようにして行うのですか。
「加速度」、「ブレーキ」、「急カーブ」、「速度オーバー」という4つの指標でスコアリング(運転の評価)をしています。GPS機能を利用してそれぞれの指標に基づいたデータを取り、標準値と比較しながら運転特性の判断を行っています。
他の保険会社も類似のツールを使用しているのですが、AXAグループならではの仕組みとして、専門のデータサイエンティストチームが解析を担当しています。非常に革新的だと思いますね。
なお、トラックなどの商用車だけでなく、個人で所有する車にもテレマティクス保険が使われています。特にイタリアでは、車が盗難などに遭った際、捜索するために取得したデータが使われる事例もあります。
若者を中心に広がっているとのことですが、これから世代を超えて拡大していく可能性はありますか?
若者だけでなく、シニアの層にも拡大していくと思います。
これまでは、テレマティクス保険に加入するために初期投資として高額な車載デバイス(機器)を購入しなければならないということもあり、シニアのお客さまにとってはなかなか若年層のような保険料の割引の恩恵を享受することができませんでした。
しかし、現在は持っているスマートフォンから初期投資ゼロでテレマティクス保険に必要な運転特性データが取れるようになってきておりますので、ハードルが格段に下がっています。
また、シニアのお客さまの中には「テレマティクス技術を活用したサービス」に興味を持っている方も多くいらっしゃいます。
そんなお客さまにご提案していきたいサービスが、衝突など不慮の事故を起こしてしまった場合、テレマティクス技術を利用することですぐさまAXAグループのサポートチームに通知されるサービスです。
間髪入れずに事故対応が可能という利点に加えて、裁判になった際「スピードが超過していたかどうか」なども調べられるので、法的保護にも役立ちますね。
最終的には、ローコスト(低価格)で最新テクノロジーを駆使して全てのお客さまにサービスを提供していくことを目指していきたいです。
テレマティクス保険の広がりによって、社会はどのように変わっていくと思いますか?
全てのお客さまがテレマティクス保険に加入されると仮定した場合、ドライバー同士の現在位置がリアルタイムで把握できます。ですから、駐車場の空くタイミングが分かったり、渋滞が解消されたりすると思います。
渋滞にはまると大きな時間の浪費になりますので、それが解消すればあわせて経済的なメリットも見込めるというのが私の考えです。
さらに、「自分がいい運転をしているのか」というフィードバックを受けることができますから、そのフィードバックから安全運転の意識が高まれば社会的にもインパクトが大きいと感じています。毎月保険料を支払うことで、月ごとにドライバー自身で「いい運転ができたかどうか」と客観的にチェックすることができます。
テレマティクス保険が広がっていくにつれて、より多くの方々が「保険料を下げるために、安全運転をしよう」というマインドに変わっていくと考えられます。
世界へ普及させていくにあたっての課題は何でしょうか?
少なくとも、日本という市場で普及させていくには5つの課題があります。
まずは行政(金融庁)からの認可が必要だということ。2つ目は、車載デバイス(機器)を使用する場合、初期投資が高くつくということ。3つ目は、スマートフォンで運転特性データを収集する場合、スマートフォンのバッテリーの問題があるということ。4つ目は、GPS機能を利用して位置情報データを取得することはできるのですが、一定の誤差が出てしまうこと。最後に、データの正確性が重要になってくるので優秀なデータサイエンティストが必要だということ、この5つです。
今後、テレマティクス保険事業を展開していくにあたってのビジョンを教えてください。
一番は「ベストのサービスを提供する」ということです。ひとたび事故が起きたら迅速にサポートできる体制づくりというのもそうですし、自動車自体についても、瑕疵がないか、あるとすればどこにあるのか調べられるようにしたいと考えています。
ドライバーであれば、一定期間ごとに自動車の状態を点検してもらっているかと思うのですが、テクノロジーを利用することで常に自分の車の状態をチェックできます。わずらわしい点検の必要がないのです。
また、故障の状態に応じて、「平均的にどれくらいのコストがかかるのか」などといった情報をお客さまに提供していく予定です。
もうひとつ重要な目標として、「シンプルな商品にしたい」ということがあります。
今、ヨーロッパで車載デバイス(機器)を取りつけようと思ったら、種類にもよりますが、わざわざお店まで足を運び、エンジニアに設置してもらわなくてはなりません。テレマティクス保険は複雑すぎるのです。
あくまで気軽に、独力で取りつけることのできるものを目指していきたいですね。
まとめ
ドライバーの情報を取得することで、安全運転で保険料が下がるだけでなく、迅速な事故対応や法的保護のためのデータなど多くの恩恵を享受できるテレマティクス保険。よりシンプルな商品や仕組みが実現すれば、まさに世界のスタンダードになるのではないでしょうか。
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プロフィール
Alexandre Brel
アレクサンドル ブレルMobile Developments Supervisor, (AXA Global Direct)
1986年生まれ。
エンジニアスクールを卒業後、アクチュアリーとして各国でP&C業務に従事。
2015年1月よりAXA Global Directにてアプリ開発。テレマティクス保険関連のプロモーション施策にも携わる。
※役職は取材当時のものです。