2020/08/20
愛猫が後ろ足を引きずっている、呼吸がつらそう、食欲がない、それは心筋症が進行しているのかも知れません。心筋症は猫の心臓病のなかでもっとも多く、不可逆的に進行していく病気です。現時点で、心筋症を治す方法はありません。しかし、早期発見ができれば、病状に応じた治療を行うことで、症状を緩和できたり、進行を緩やかにすることができるかもしれません。そのため、猫の飼い主さんはこの病気について知っておくことが大切です。
心筋症はその名のとおり、心筋(心臓の筋肉)に異常を引き起こす病気です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役目をしており、心臓の働きが悪くなると、血液をスムーズに送り出せなくなります。
心筋症の発症に年齢は関係なく、子猫~老猫まで幅広く発症します。さらに、初期段階では目立った症状はなく、症状がみられるころには心筋症がかなり進行し、命に関わることもある怖い病気です。心筋症の発症理由はよく分かっておらず、遺伝的な要因、自己免疫疾患、ウイルス感染症などが疑われています。
猫の心筋症には大きく分けて「肥大型」「拡張型」「拘束型」の3つの型があります。
心筋症のなかでもっとも多くみられ、心筋が分厚くなることで血液を溜めておく部屋(心室・心房)が狭くなる病気です。これにより、心臓で溜められる血液の量が減り、体中に送り出せる血液の量も減ります。
そして他の心筋症に比べて、血栓(血液の塊)ができやすいことが特徴です。狭くなった心臓の中で血液の流れが乱れ、これが原因で血栓ができ、血栓は血液とともに全身へ運ばれ血管を詰まらせていきます。特に左右の後ろ足に血液を運ぶ動脈の分岐部分に詰まることが多く、両方の後ろ足が冷たくなる、麻痺をする、痛がることで後ろ足を引きずるようになります(血栓塞栓症)。血液の循環不全がさらに進むと、失神を繰り返すこともあります。
好発品種として、アメリカンショートヘアー、メインクーン、ペルシャ猫などが挙げられます。数か月齢から高齢まで、幅広い年齢で発症がみられ、オスに多いといわれています。
心筋が薄く伸びることで収縮力が弱くなり、血液をうまく全身に送り出すことができなくなる病気で、肥大型心筋症の次に多いと言われています。原因のひとつにタウリン欠乏が挙げられ、市販のキャットフードにタウリンがしっかりと添加される数十年前までよくみられた病気でした。現在では拡張型心筋症は激減しましたが、ほとんどが原因不明(遺伝的要因)の拡張型心筋症です。
好発品種として、アビシニアンやシャムが挙げられます。
心筋の内側の組織が硬くなり、心臓がうまく動けなくなる病気です。感染症との関連も指摘されていますが、はっきりとした原因は分かっていません。症例も多くなく好発品種なども不明です。
どの心筋症も、初期段階では目立った症状がほとんどないため、重症化してから発覚するところが、心筋症のやっかいなところです。
もし、愛猫に下記のような症状やしぐさがみられる場合には注意をしましょう。
心筋症の初期頃からみられやすい
・元気がない
・食欲が落ちた
・疲れやすく、遊ばなくなった
心筋症がすでに進行している際にみられやすい
・呼吸が荒い、口を開けて呼吸をしている
・咳をする
・動くことを嫌がり、ほとんど動かなくなる
・失神を繰り返す
・後ろ足を引きずって歩く(特に両足)
・後ろ足が異常に冷たい、肉球の色が白っぽくなる
・歯肉や舌の色が白っぽい、あるいは紫色になる
上記のような症状がでた時点で重症化しており、深刻な病状に陥っている可能性が高いため一刻も早く動物病院へ連れていきましょう。
残念ながら、心筋症そのものを完治させる治療はなく、原因が分からないため、発症を防ぐこともできません。それでも無症状の時点で早期発見・早期治療が行えれば、普通の猫たちと同じように生活できます。ちょっとした変化に気づけるように飼い主さん自身が愛猫の体調を把握しておくことや、動物病院での定期的な健康診断などが早期発見のポイントとなります。
下記のポイントを押さえつつ、気になる症状や変化があった場合は、動物病院へ相談してみましょう。
・安静時の呼吸数のカウント
早期発見につなげるために呼吸数をチェックしましょう。毎月1回、愛猫がのんびりとくつろいでいる時に1分間の呼吸数を数えてみましょう。心臓病全般に言えることですが、心疾患の猫では呼吸数が増加することが多いです。1分間に20~30回が正常値なのですが、安静時で40回を超えてくる場合は心臓病の可能性が考えられるため、動物病院に連れていき、獣医師さんに相談をしましょう。
・定期的な健康診断
心筋症の予防法はありませんので、何より早期発見・早期治療が大切です。猫は動物病院など、普段と違う環境では、心拍数が早くなったり緊張によって喉を鳴らす音が出てしまったり、心臓の音を正確に聴診しにくい場合が多いうえ、心臓病があっても必ずしも心雑音が出るわけではありません。普段の診察や聴診検査と合わせて、心電図やレントゲン、超音波検査といった精密検査を含む総合的な健康診断を定期的に受けるようにしましょう。
・適切な食事管理
肥満や塩分の取り過ぎは心臓に負担をかけます。食事やおやつの内容を見直して、バランスの良い食生活を心がけましょう。
どの型の心筋症も薬を使い、病気の進行や症状を緩和させたり、血栓を予防するといった内科療法が主になります。心臓の動きを助けて血液を全身に送りやすくする薬や、血圧を下げる薬、血栓症を予防する薬などの治療が行われますが、血栓症になった場合には経過時間や病状に合わせ、血栓を溶かす薬の投与などが行われます。ほかにも、心臓へ負荷がかかると肺へ液体成分がにじみ出てしまう心原性肺水腫や胸水・腹水の治療として、利尿剤を使うこともあります。進行度や病状に合わせて薬の種類を変えるなど、治療内容を変えながら、多くの場合一生涯投薬を続ける必要があります。
心臓に負担のかからない生活環境を整えてあげましょう。
・温度管理
心臓が悪い猫にとって、夏の暑さや急な温度変化、湿気のジメジメとした気持ち悪さは天敵です。日頃から温度や湿度に十分注意して、可能であれば室温を一定の温度(25℃前後)に保ち、湿度は50~60%を目安に調整し、急な冷えや異常な暑さを防ぎ、快適な環境を維持してあげましょう。
・運動制限
太り過ぎないよう適度に動くことは大切ですが、激しい運動や興奮してしまう行動は心臓に負担となりますので、なるべく避けてください。
心筋症は予防法もなく、発症すると多くの場合、一生涯の投薬が必要となります。また、早期の段階でも初期診察料・再診察料500円~3,000円、レントゲン1枚あたり3,000~6,000円、心臓超音波検査2,000~7,000円、血液検査5,000~10,000円、飲み薬(2週間分)2,000~6,000円 (※種類による)、さらに腹水などが溜まるようであれば水を抜く処置や抗生物質の注射、病状が重篤化すれば、入院費などが発生します。各動物病院、病気の進行度合いで違いますが、高額な治療費を負担しなくてはなりません。
※循環器の診療には、初期診察料・再診察料のほかに専門医診療費がかかることもあります。
心筋症が重篤化して、呼吸を荒くしていたり、うずくまって動かない時は、相当の痛みに耐えている可能性があります。愛猫が苦しむような事態をできるだけ回避するために定期的な健康診断を心がけましょう。また、治療費が高額になりやすいため、満足な治療を受けさせてあげられるよう、ペット保険を検討してみてもいいかもしれません。