2020/10/08
愛犬が骨折した場合、どう対処すべきか分からない飼い主さんは多いのではないでしょうか。犬は比較的骨折しやすい動物であり、一見安全に見える室内にも骨折のきっかけになるような危険が潜んでいます。骨折に気が付かず治療が遅れると後遺症が残ることも。そのような事態にならないために、犬が骨折した時の症状や見抜き方、さらには骨折時の応急処置や治療費について詳しく解説します。
どのようなことで犬は骨折をするのでしょうか?身近に潜む危険をご紹介します。
高いところやソファから飛び降りる
飛び降りた際に、犬はまず前脚で着地をします。両前脚(特に肘から手首までを構成する骨:橈骨・尺骨)で全体重を受け止めないといけないので、大きな負担がかかりやすく、骨折の原因となります。日常生活のなかで起こる骨折は前脚(橈骨・尺骨の骨折)が多いのはこのためです。
階段からの落下・フローリングでの転倒
犬にとって木製のフローリング材は、滑りやすい床になります。階段で滑り落ちる、室内で遊んでいたら脚を滑らせ転倒するなどの骨折は、小型犬では特に多くみられます。
飼い主さんが誤って踏んでしまう
室内で、愛犬が足元にいることに気が付かず、脚先の骨を骨折するケースもあります。1歳未満の子犬の時期は飛んだり跳ねたり、飼い主の足元でじゃれてきたり骨折のリスクの高い時期です。骨も発達段階で柔らかく折れやすいので特に注意して管理してあげましょう。また、落ちてきた物にぶつかってしまうケースや、飼い主さんが締めたドアに挟まり骨折する場合もあります。
おでかけ時のトラブル
散歩や公園・ドッグランなどで遊んでいる際に、ほかの犬との喧嘩、交通事故などで強い衝撃を受け、首や頭、胸や腰、骨盤等の部分を骨折することもあります。特に、体を動かす重要な神経が走っている部位の骨折では、身体の麻痺や排便排尿困難などの症状が出ることがあります。
また、骨密度が低下する病気を患っていたり、高齢になった犬では、咳をした際に肋骨が疲労骨折する場合があります。このような骨折では、強い痛みが出ない場合もあるため、飼い主さんが愛犬の骨折に気付かないことも多くあります。
骨折はどの犬にも起こるものですが、小型犬、その中でも特にスリムな体型をしている犬種や脚が細長い犬種は骨折しやすいと言われています。
骨折しやすい犬種の代表例
・ トイ・プードル
・ チワワ
・ パピヨン
・ ポメラニアン
・ マルチーズ
・ ミニチュア・ピンシャー
・ イタリアン・グレーハウンド
また、骨が未発達な子犬や、年齢を重ねて骨が弱くなりつつある犬は、ちょっとした衝撃でも骨折をすることがありますので、抱っこをする時に落下させないように注意し、ソファーなどからのジャンプや散歩時の事故にも注意が必要です。
犬は骨折しても痛みにじっと耐えることがあります。人間のように言葉が話せるわけではないので、飼い主さんが歩き方や行動から異変を見抜き、なるべく早く動物病院へ連れて行ってあげることが大切です。
骨折をしている可能性が高い行動例
・ 脚を引きずっている
・ 脚が地面につかないように歩いている
・ 脚の一部分を頻繁になめている
・ 腫れて熱を持った部分がある
・ 歩くとよろめく、ふらつく
・ 元気や食欲が無く、隅でじっとしている
・ 体に触られることを嫌がる
・ 排便・排尿がうまくできない、漏らす
骨折は放置していると、骨が曲がった状態のままくっついたり、骨が折れたまま関節のようにクニャっと曲がる状態(偽関節)になってしまう場合があります。このような状態になると正常な構造に治すのは困難になります。
愛犬の骨折に気づいた場合、骨折が脚など固定できる部分であれば、できるだけ応急処置をしてから動物病院へ連れて行くとよいでしょう。
固定をするために必要なもの
・タオル
・割りばし、ものさし定規、しゃもじ、厚手の段ボールなど、細長くて硬さがあるもの
・テープ(包帯もあれば準備してください)
固定方法
1.骨折部にタオルを巻き、テープで軽く固定する。
2.割りばし、ものさし定規などを当て、全体を包帯やテープなどできつすぎない程度に巻く。
※強く巻きすぎると血流に障害が起こるので、動物病院に行くまで外れない程度の強さでOK
落下事故や交通事故などの場合には、骨折以外にも脳や内臓にも問題が起きている可能性が考えられるため、愛犬をなるべく動かさないように担架(段ボールや板でも代用可)などに乗せて動物病院へ運びましょう。
ただし、愛犬が痛みで興奮状態の場合や患部を触ることを嫌がる場合には、応急処置はせず、動物病院に電話をして、すぐに連れていきましょう。
犬の骨折時の治療法は主に「ピン・プレート固定法」「創外固定法」「外副子固定法」の3つです。以下では、それぞれの治療の方法や費用について説明します。
ピン・プレート固定法
手術によって骨折部位をピンやプレートで直接固定する方法です。理想的な形に戻すことが出来る手術で非常に優れた治療法ですが、全身麻酔下で骨折部位を切開して行われるため、愛犬の体への負担はほかの治療法より大きく、体力の少ない子犬や高齢犬ではこの治療法を選択できない場合もあります。また、治療費も入院や検査の費用を含めると100,000円~500,000円程です。
創外固定法
手術によって骨折部位を皮膚の外側からピンで固定する方法です。骨折部位を大きく切開する必要が無く、骨が皮膚から突き出てしまった骨折や歯周病に起因した顎の骨折、プレート固定法で固定することが難しい粉砕骨折などに用いられます。治療費は検査、麻酔や入院費用を含めると100,000円~500,000円程です。
外副子固定法
骨折部位を外から固定する方法です。手術は行わず、ギプスで外側から固定する方法です。骨折が軽い場合や骨がずれていない場合には、アルミやプラスチック素材の副子(添え木のこと)と包帯などを用いて患部を固定します。治療費は5,000円~60,000円程です。
手術をしないため犬の身体への負担が少ないですが、骨を直接固定しない方法なので骨癒合不全などのトラブルも多い治療法です。副子で固定をしている間(およそ2カ月間)はしっかりとした愛犬をケージに入れて安静させましょう。
治療期間は骨折の程度によるため、2~3カ月で完治する場合もあれば、半年以上かかることもあり、費用も骨折の状況や、治療法や治療期間によって異なります。手術後の経過観察で定期的なレントゲン検査などが必要になる場合もありますので、治療期間や治療費、手術の術式などは、獣医師へ確認しましょう。
犬の骨折の予防方法や対策は以下の3つです。これらをしっかりおさえて、愛犬の骨折のリスクを減らしましょう。
子犬の頃からのしつけ・食事の改善
まずは子犬の時から室内の危険な場所には近づかないように、しつけておくのが大切です。机や椅子の上など高い場所に登らせない、室内では激しく走り回らないようにしつけておくと、成犬になっても骨折のリスクを減らせます。また、骨や筋肉が育つ子犬の時期は、子犬に適した栄養バランスの食事を与えましょう。
そして、子犬の骨の強化のために過剰なカルシウム摂取は注意が必要です。過剰なカルシウムの摂取は腸からのカルシウムの吸収率が悪くなり、また骨の成長を阻害してしまい逆効果です。一般的に販売されている子犬用のフードは消化が良く、効率的にエネルギーが摂取できるよう作られており、適正なカルシウムが入っていますので、カルシウム剤などの追加投与は避けましょう。
飼い主さんのサポート
愛犬を抱き上げる時は、腕全体で優しく愛犬を包み込むようにしましょう。普段から、抱き上げても暴れないように慣れさせておく必要があります。お子さんがいる場合には、不用意に愛犬を抱き上げないよう伝えておくのも大切です。また、散歩の時につけるリードは短く持つと、常に素早く愛犬をコントロールでき、ほかの犬とのトラブルや交通事故にあうリスクを減らせます。散歩などの適度な運動は骨に良い刺激を与え、骨を強化してくれます。
生活環境の見直し
家の中の落下事故、転倒事故、はさまれ事故を防ぐ対策をしましょう。ソファーやベッドなど愛犬が日常的に上り下りする場所には、スロープや階段状のクッションを置いたり、着地する場所にクッション性が高くグリップの効くマットを設置すると安全性が上がります。部屋がフローリングなどの滑りやすい床材の場合、カーペットや連結して使えるジョイントマット等を敷き、愛犬の転倒リスクを減らしましょう。
ドアは勝手に閉まらないようにストッパーを設置するほかに、飼い主さんがドアの開閉をする際には、足元を注意するよう心がけてください。
骨折は交通事故にあったり、とても高い場所から落ちない限りめったに起こらないもの、と考えている飼い主さんもいるかと思います。しかし、意外にも日常のさまざまな場面に骨折の危険は潜んでいます。そのため、飼い主さんが事前に対策をして、愛犬をしっかり守ってあげましょう。愛犬の異変に気づいたら早めに動物病院を受診することも大切です。また、いつ起こるかわからない病気やケガに備えて、ペット保険への加入も検討してみてはいかがでしょうか。