2020/10/15
愛猫がしきりに口を気にしている行動を見かけたり、口臭が気になることはありませんか。口の中を覗いてみると愛猫の歯に黒い点があったり、歯が突然ぽろっと抜けてしまったら、その原因は虫歯なのでしょうか。猫が口にかかえる問題や治療方法・治療費・予防方法について解説します。
猫は基本的に虫歯になりません。それは、虫歯菌の存在や、人間と猫の口腔内の環境や食べ物の違いが関係しています。詳しい理由は以下のとおりです。
虫歯菌の存在
虫歯とは口腔内の虫歯菌(主にミュータンス菌)が酸を出すことで歯を溶かしてしまう病気です。この虫歯菌は「酸性の環境」と「糖」を好みますが、猫の口腔内の環境は日本獣医師会「小動物歯科診療の歴史ならびに現状と展望(||)」の報告によると猫の口腔内はアルカリ性(pH7.5~8.5)です。そのため、猫の口腔内は虫歯菌が増殖しにくい環境といわれています。
歯の構造
私たち人間は食べ物をモグモグと咀嚼してから飲み込むので、奥歯はすりつぶすことに適した臼状の歯が隙間なく並んでいます。そのため、細かくなった食べカスが隙間に入り込み虫歯菌の温床になってしまいます。しかし、猫の奥歯は山状になっており、食べ物をハサミのように切り裂く形状で、歯と歯の間隔が空いています。奥歯同士が密に接することが無く、上下で合わさる面積が少ないため、食べカスが残りにくく、構造自体も虫歯菌には住みにくい環境なのです。
食べ物の違い
前述したとおり、虫歯菌は糖を好みます。炭水化物の中にはでんぷん質が含まれ、このでんぷん質はアミラーゼという酵素により糖へと分解されます。しかし、猫は肉食動物なので、炭水化物の摂取が少なく、さらに、口内にアミラーゼが無いという2つの特徴から、虫歯菌が住めない環境となります。
このような理由から「虫歯菌は猫の口腔内に存在しない=虫歯にならない」というわけです。
ただし、これはあくまで本来の食生活の猫の場合であり、キャットフードやおやつによっては糖類を多く含んでいたり炭水化物を主成分としたものも存在するため、誤った食生活を続けていると虫歯菌には住みやすい環境になる可能性があります。
また、免疫の異常によって猫の歯のエナメル質が溶けていき、あたかも虫歯のように歯に穴が空いた状態になり、虫歯ように痛みを伴う破歯細胞性吸収病巣という病気は比較的多いので要注意です。
猫の歯になかなか取れない汚れが付着していることがあります。
■黄色や暗褐色
ネバつきがある場合には、歯石や歯垢の可能性が高いです。
■灰色や白っぽい汚れ
食べカスや毛の塊の可能性があります。
■赤い汚れ
歯肉に近い歯に赤い汚れ(肉芽組織)がついている場合は破歯細胞性吸収病巣の可能性があります。
これらの色のついた汚れの中でも、「赤い汚れ」は破歯細胞性吸収病巣によって歯の表面のツルツルとしたエナメル質が欠損して、その部分を歯肉が覆い隠した状態である場合が多く、無理に除去すると愛猫が苦痛に感じたり、出血したり歯が折れたりする場合がありますので、無理に取ろうとせず、まず動物病院に相談するとよいでしょう。
ここまで、猫は虫歯にならないというはご説明をしましたが、猫の口内の病気で多いのが歯周病です。歯周病は、歯垢内の細菌が出す毒素によって歯肉に炎症が起きる病気です。歯周病の初期は、歯肉炎と呼ばれる歯肉の炎症のみですが、進行すると歯を支える骨や周囲の組織に炎症が広がる歯周炎となり、最終的には歯が抜けてしまいます。
猫の歯周病の症状や兆候
猫の歯周病には、以下のような症状があります。歯の病気全般にもみられる症状でもあるため、これらのポイントを参考にして愛猫の歯をチェックしてみましょう。
・ 口臭がある
・ 歯に歯垢や歯石が付着している(特に奥歯の外側)
・ よだれが多くなる、またはよだれで前脚が濡れている
・ 食べにくそうにしている、食欲が低下している
・ 目の下の頬部や歯茎が赤く腫れてくる
・ 目の下の頬部や歯茎から血や膿が出る
・ 歯がぐらつく
・ 鼻水やくしゃみを頻繁にする
・ 歯が抜ける
歯周病が進行すると、歯の根の部分に感染が進み、細菌が歯を支える骨を溶かし、最終的に目の下の皮膚に穴があく場合や、血や膿が混ざった鼻水が出るなどの症状がみられることもあります。猫の口腔内にも激しい痛みが伴います。そのため、飼い主さんがこれらの症状に気づいた時には、早めに動物病院へ連れて行き、速やかに治療に入ることが大切です。
猫が歯周病にかかりやすい理由と原因
猫が歯周病にかかる主な原因は、歯石の付着による細菌感染です。ウェットフードやおやつは食べやすく柔らかいため、食べカスが歯に残りやすく、それを栄養に細菌が歯垢を産生します。猫は歯垢が歯石に変わるペースが早く、およそ1週間で歯垢は歯石に変化し、ケアを怠ると歯周病になってしまいます。
また、高齢の猫やウイルス(猫エイズウイルス、猫白血病ウイルスなど)に感染し、免疫力が低下している場合は、歯周病になりやすく悪化しやすいので注意が必要です。
歯周病は自然に治ることはありません。ただし歯肉の炎症のみの初期治療に受けることで回復可能なため、愛猫が口を気にしていないか早期発見が大切です。以下、それぞれの治療方法とかかるおおよその費用について説明します。
歯垢・歯石の除去
歯垢・歯石の付着がある場合には、全身麻酔をしたのちに、超音波スケーラーなどを使い、歯の表面や歯周ポケットに入り込んでいる歯垢・歯石を取り除きます。その後、研磨剤で歯の表面を歯石の再付着を防ぐためにツルツルに磨きます。治療費は麻酔法や症状の進行状況、検査内容などで様々ですが、治療前の検査代や麻酔代などを合わせると20,000円~40,000円ほどになります。
投薬
歯肉炎や感染が重度な場合は、歯垢・歯石の除去だけでなく、抗生剤や消炎鎮痛剤などを使って炎症や感染、痛みを抑えていきます。そのほかにも免疫異常による口内炎を伴う場合はサプリメントや免疫抑制や免疫調整剤が処方されることがあるなど、投薬の費用は内容によって様々となり、10,000円~20,000円ほどになるでしょう。
抜歯
歯周病が進行して歯がぐらついている、歯の根元まで露出している場合には抜歯が必要です。治療しても元通りになることは難しく、露出した歯根部を残しておくと痛みを伴います。ただし、抜歯は根を残さないように慎重に行う必要があり、全身麻酔下で行われる手術のため愛猫の健康面にも十分配慮したうえで、獣医師とよく相談して決定しましょう。
抜歯にかかる治療費は、歯1本につきおよそ3,000円~12,500円ほどかかります。術前の検査、全身麻酔や歯科レントゲンの費用が別途必要となり、入院の有無や歯を抜く本数や犬歯や臼歯などの種類や難易度によって費用にも大きく差があります。場合によっては100,000円を超える場合もあります。
また、抜歯をした後は痛みや口腔内の違和感を伴うため、しっかりと術後も鎮痛管理を行い、1~2週間ほどは柔らかめの食事を与え、愛猫の様子を見ながら普段の食事に切り替えていくとよいでしょう。
※費用は参考であり、正確な費用については治療前に動物病院に確認をしましょう。
歯周病が重症化すると、愛猫の身体に負担のかかる治療が必要になるため、日頃から歯のお手入れをして歯周病を予防することが大切です。
歯磨きの習慣化
歯垢は歯磨きなどですぐ取り除けますので、毎日の歯磨きを習慣化することが大切です。子猫のうちに慣れさせておきましょう。個体差はありますが、成猫になってからでも歯磨きを習慣化することは可能です。まずは、日頃の触れ合いのときに指で口周りを触ってみる、慣れたら指で歯を触ってみる、という風に、段階を踏んで慣れさせていきましょう。歯ブラシは猫専用のものを使用します。愛猫が嫌がっているときは無理に行わないようにしましょう。歯磨きが嫌いになってしまいます。
また、歯ブラシを使用せず歯磨きシートや手袋などで行っても効果が期待できます。歯磨き粉や歯磨きジェルは、ビタミンCやBを添加して歯肉炎を抑えたり、歯垢を分解する酵素(グルコースオキシダーゼ、ラクトペルオキシダーゼ)や、ポリリン酸による歯石予防効果が期待される猫用歯磨き粉を使用すると効果的です。
デンタルガムやデンタルトリーツを活用する
歯磨きが難しい場合には、猫用のデンタルガムやデンタルトリーツを活用して歯石を防ぎましょう。しっかり噛むことで歯垢や歯石を除去してくれるような形状になっていたり、食べることで歯垢を分解してくれる酵素を含んだものがあります。サーモンやチキンなど、色々な味が販売されているため、愛猫も美味しく食べてくれるでしょう。与えすぎると肥満の原因になるので、毎日の適量は守ってください。
日頃のケアで口内トラブルから愛猫を守りましょう
猫は口腔内の環境や歯の構造によって虫歯にはなりませんが、歯周病にはなりやすく、進行した歯周炎の段階になると完治しにくく、臓器(腎臓、肝臓、心臓など)にも大きな負担がかかります。少しでもおかしな様子を発見したりした場合には早めに動物病院を受診しましょう。歯磨きを習慣化して、日頃からケアを怠らないことも大切です。