2020/12/17

【獣医師監修】猫のリンパ腫|発症しやすい猫 症状や原因・予防法とは

2020/12/17

【獣医師監修】猫のリンパ腫|発症しやすい猫 症状や原因・予防法とは

 猫のリンパ腫とは、リンパ球の癌で発症する部位により症状が異なります。猫の病気の中でも重い疾患のひとつで、発症をすると治療が長期になることもあります。本記事では猫にリンパ腫の種類で見られる症状や原因、リンパ腫の予防法について詳しく紹介していきます。

猫のリンパ腫の種類や症状とは

 リンパ腫とは体の中にある白血球の一種であるリンパ球が癌化することで発症し、猫の腫瘍の中では比較的多いです。リンパ球とは、免疫に関わる細胞で、体内で細菌やウイルスなどの侵入を阻止したり、攻撃したりする働きがあります。

 猫のリンパ腫は発生した部位によって症状は様々ですが、すべてのリンパ腫に共通した症状としては、元気喪失や食欲不振、体重減少などが挙げられます。
 また、猫のリンパ腫は部位により、猫白血病ウイルス感染症が関与して発生する場合があります。代表的なリンパ腫の特徴と症状について詳しく見ていきましょう。

多中心型リンパ腫

 リンパ節は全身にありますが、多中心型リンパ腫では特に顎の下、鎖骨の内側、脇の下、ひざの裏、内股の付け根などの体の表面にあるリンパ節が丸く大きく腫れます。主な症状は元気喪失、食欲不振、体重減少、発熱、末梢リンパ節の腫れなどが挙げられますが、初期には無症状の場合も多いです。若齢の猫によく見られ、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の陽性率が高いのが特徴です。

縦隔型リンパ腫

 胸の中のリンパ節に発生するリンパ腫です。肋骨より内側の部位で発生するため、触診では確認できず、レントゲンや超音波検査などで確認をします。呼吸困難、咳、吐出、飲み込みが難しくなる、胸に水がたまるといった症状がみられます。
 もし、口を開けて呼吸をしている場合、重症化している可能性がありますので、早めに動物病院に連れて行きましょう。若齢の猫によく見られ、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の陽性率が高いのが特徴です。

消化器型リンパ腫

 猫のリンパ腫の中でもっとも多く見られるタイプで、胃や腸管などに発症し、特に小腸や腸間膜での発症が多いです。嘔吐や下痢、元気喪失、食欲不振、体重減少などの症状がみられます。
 10歳以上の老猫によく見られ、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)の陽性率は低いです。

リンパ腫が起きやすい猫

 猫のリンパ腫は加齢とともに発生リスクが高くなるため、高齢な猫がかかることが多いのですが、前述でも登場した猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染していると若齢の猫でも発症する場合があるため、年齢に関係なく注意が必要です。

品種では、すべての猫種が引き起こす可能性がありますが、シャムが好発猫種と言われています。

品種では、すべての猫種が引き起こす可能性がありますが、シャムが好発猫種と言われています。

猫のリンパ腫の原因

 猫のリンパ腫の発生原因について、はっきりしたことは分かっていないのが現状です。しかし、猫白血病ウイルス(FeLV)と猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染がリンパ腫の発生率を高めることが分かっています。近年はFeLV、FIV共にワクチンが開発され、飼い主さんの予防意識が高まっていることから、ウイルスが関与した若齢猫のリンパ腫は減少し、高齢猫の消化器型のリンパ腫が増加する傾向にあると言われています。

猫白血病ウイルスの感染

 前述でも登場したように、リンパ腫の主な原因のひとつとして考えられているウイルスで、若齢で発症する猫の多くは、この猫白血病ウイルス(FeLV)に感染しています。
 猫白血病ウイルスはその名前の通り、白血病を引きおこすウイルスですが、そのほかにも免疫不全や貧血、口内炎、リンパ腫などの原因にもなります。

 猫白血病ウイルスの感染経路、治療法などについて詳しくは「「猫白血病ウイルス感染症」はどんな病気?獣医師に聞きました」をご覧ください。

猫免疫不全ウイルス(FIV:猫エイズ)の感染

 免疫不全症候群を発症させるウイルスで、「猫エイズ」とも呼ばれています。感染直後は、一時的に発熱や下痢、全身のリンパの腫れなどが見られますが、次第に無症状で持続感染したキャリア(猫エイズウイルスを持つ猫)となって数年かけてウイルスが体内で増殖し、免疫不全症候群(エイズ)を発症して死に至ることがあります。中には生涯キャリアのまま発症せず過ごす猫もいますが、感染しているとリンパ腫を発症する確率も高まり、ほかの猫への感染源になりますので注意が必要です。

 猫免疫不全ウイルスの感染経路、症状、治療法などについて詳しくは「猫エイズについて知ろう!感染経路や予防接種、発症リスク」をご覧ください。

発生原因は明確ではないからこそ、確率を下げるためのワクチン接種はとても大切です。

発生原因は明確ではないからこそ、確率を下げるためのワクチン接種はとても大切です。

リンパ腫の予防

 命を落とすことも多い病気であるリンパ腫にかからないようにするための、予防対策をまとめました。

完全室内飼育

 猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)の感染を避けるためにも完全室内飼育が理想的です。ほかの猫と接触させなければ、リンパ腫になる確率も大きく下げられます。

複数飼育を検討する場合には、血液検査でウイルス感染があるか確認をした後で同居をさせましょう。

複数飼育を検討する場合には、血液検査でウイルス感染があるか確認をした後で同居をさせましょう。

ワクチンの接種

 猫白血病ウイルス(FeLV)や猫免疫不全ウイルス(FIV)にはワクチンがあります。ワクチン接種をしていれば、100%感染を防げるというわけではありません。
 しかし、ワクチン接種を行うことで、ウイルス感染のリスクを減らすだけでなく、これらのウイルスに起因するリンパ腫の発症率を高めないようにすることが予防にもつながります。

 猫のワクチン接種について、種類や費用など詳しくは、「猫を感染症から守るワクチン接種。種類、費用、副作用のリスクは?」をご覧ください。

猫のリンパ腫治療には主に抗がん剤治療が用いられる

 リンパ腫は全身にひろがる病気のため、一般的には全身に効果的な「抗がん剤治療」が主体になります。抗がん剤は飲み薬のタイプや注射のタイプなどがあり、何種類かを併用して効果を最大限にする場合が多いです。
 また、消化器型リンパ腫によって腸閉塞が起こり緊急性のある場合や、鼻や皮膚など局所にできたリンパ腫の場合には「外科的摘出」や「放射線治療」によって腫瘍の減量を行うこともあります。

 抗がん剤治療は、リンパ腫の種類、進行度合いや発生部位、猫の年齢や体力、猫白血病ウイルス(FeLV)と猫免疫不全ウイルス(FIV)への感染の有無などによって、期待される効果が変わります。治療の目的は、腫瘍をなくす(完治)ではなく腫瘍を小さくしたり、消失させたりと症状が落ち着いた状態を保つことです。
 また、抗がん剤の投与により、嘔吐、下痢、貧血、免疫抑制、脱毛などの症状が出ることがあります。定期的な検査や補助的な治療によって最小限に抑え、症状が落ち着き、抗がん剤治療が一旦終了した後も動物病院で定期的な再発有無の確認を行うようにしましょう。

年齢や病歴の有無に関係なく、少なくても年に1回の健康診断はとても大切です。

年齢や病歴の有無に関係なく、少なくても年に1回の健康診断はとても大切です。

愛猫の健康を守ろう

 愛猫をリンパ腫から守るためには、予防対策がとても大切です。完全室内飼育やワクチン接種など、愛猫を迎える前からきちんとした知識を身に付けておくとよいでしょう。
 また、リンパ腫の治療は決して簡単なものではないため愛猫だけでなく、治療のための長期通院や費用は、飼い主さんいとっても精神的な大きな負担になりますので、万が一のときのために、ペット保険に入っておくことも大切です。きちんと備えて、愛猫と楽しい生活を送りましょう。

白神久輝先生
監修 /
白神 久輝 先生
 埼玉県草加市にある「ぐぅ動物病院」の院長。2005年4月の開院以来、大学病院や専門病院と連携をとりながら、常に最先端の技術や機器を導入しており、飼い主さんにもわかりやすい説明でサービスを提供し続けている。また病気になりにくい体づくり(予防、日常ケア)のアドバイスも積極的に行っており、地域のかかりつけ医・中核病院として親しまれている。
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