2016/06/28
日本人の成人のうち、約8割が罹患しているという「歯周病」。重症になると歯が抜け、また細菌によって内臓疾患を引き起こしてしまうこともある、恐ろしい病気です。
この歯周病、実は人間だけの病気ではありません。犬にとっても、歯周病は健康の大敵なのです!
犬の歯周病予防や、歯周病になってしまった時の治療法などを三宅先生にうかがいました。
—犬も、人間と同じように歯周病になるのでしょうか?
人同様に、歯と歯茎の間の「歯周ポケット」に細菌が入り込んで、歯周病になります。
歯石の中にいる細菌が血管に入って内臓に悪影響をおよぼしますが、犬の場合も同じだと考えられています。
—人間は、加齢に伴い歯周病患者が増えると言われていますが、犬の場合もそうですか?
そうですね。個体差もありますが、歯磨き習慣のないシニア犬であれば、ほとんどの犬が歯周病にかかっているのではないでしょうか。さらに言うと若いうちから歯周病になっている犬も少なくありません。
—以前は、犬の歯周病について、あまり耳にしなかったように思います。
人の歯周病ケアが盛んになったこともあり、動物の歯周病についても注目され始めたのだと思います。
歯周病菌が内臓の病気の原因となることなどが知られてきたため、ケアの重要性が再認識されたんですね。
しかし室内飼育が増えたこと、また犬の寿命が伸びたことで、歯周病を気にする飼い主さんが増えたのではないでしょうか。
また、人間もそうですが、歯周病菌が心臓病や腎臓病など内臓の病気の原因となることが知られてきたため、歯周病ケアの重要性が再認識されたのだと思います。
—飼い犬が歯周病になっているかどうか、チェックする方法はありますか?
まずは口の中を見て、目立つ汚れがないか、歯茎が炎症を起こして赤くなっていないか、口臭が無いか、などをチェックしてください。普段見える範囲の歯が綺麗でも、奥の方の歯には歯石がついている、ということもありますので、できればしっかり観察したいですね。汚れが確認できなくても、口臭が気になって動物病院に行ったら歯周病だった、というケースもありますので、口臭がきつい場合も注意が必要です。
—犬が歯周病になると、どのような症状が出るのでしょうか?
歯茎が腫れる、出血する、歯がグラグラする、など、人と同じような症状がでます。
ただ、人は歯茎が痛むと歯医者さんに行きますが、犬は痛みを訴えないため、気付いた時にはかなり重症になっており、顔の皮膚に穴が開いて歯根に溜まった膿が出てきたり、顎の骨がダメージを受けて骨折してしまうようなこともあります。
—犬の歯周病の治療は、どのように行うのでしょうか?
まず、歯石などの汚れを全て取り去ります。歯周ポケットの中も綺麗にします。その後、ひどくグラグラしてしまっている歯に関しては抜歯をします。場合によっては悪くなった歯肉部分を切除することもあります。残せた歯に関しては、新たな汚れをつきにくくするため、研磨して表面を滑らかにします。これらの処置はもちろん全身麻酔をかけて行われます。
—歯を抜いてしまったら、入れ歯などが必要になるのですか?
犬は人のように咀嚼が必要なわけではないので、抜歯をしても食餌を変更する必要がないことがほとんどですし、入れ歯もいりません。
—治療を受けるのは、かかりつけ医で良いのでしょうか。歯科専門医がありますか?
まずはかかりつけの先生に診ていただきましょう。その上で、たとえば顎の骨折があったり、歯肉の切除や縫合が必要だと思われる場合に、歯科を専門的に勉強している先生を紹介されることもありますね。
—手術をすれば、その後は歯周病になりませんか?
残念ながら何もケアをしなければ、また歯周病になる可能性はありますよ。手術後は、ご家庭で歯磨きなどを行っていただき、定期検診の際にチェックしていくのが望ましいです。
—歯周病を予防するために、必要なことはなんでしょうか?
もちろん、歯磨きです。歯と歯茎の間についた汚れを、しっかりと落とすことが大切ですね。ただ、いきなり口の中に歯ブラシを入れても、ほとんどの場合は上手くいきません。少しずつ、手順を追って歯ブラシに慣れさせていく必要があります。
①口の周りを触る。どのように触っても犬が抵抗しなくなるまで続ける。
②犬の口の中に指を入れて、歯を触る。
③指に歯磨きペーストをつけて、歯に触る。
④歯磨きシートを使用する。
⑤歯ブラシを見せて、抵抗感がなくなったら口の中に入れる。
⑥まずは1本ずつ磨いていく。
一つのステップに慣れるまで、1週間程度かかるかもしれませんが、焦らずにやってください。大切なのは少しでも嫌がる素振りを見せたらすぐにやめ、せっかく進んだステップでも、前のステップに戻る勇気をもつことです。そして、出来るようになったら、たくさん褒めてあげてください。犬が「歯磨きをしても、嫌なことがおきない。いいことがおきる」と認識するようになれば、歯磨きへの抵抗が無くなっていきます。
理想は、毎食後にすべての歯を磨くことですが、急には無理です。犬の様子を見ながら、「急がばまわれ」の精神で取り組んでくださいね。
—嫌がる犬を叱りつけて、歯磨きをしないほうが良いのですね。
一度嫌だと思われてしまうと、その後歯磨きをさせてもらうのに大変苦労します。また、犬の噛む力は強いので、無理に口に触るのは飼い主さんが危険ですし、また歯磨きシートの誤飲なども考えられます。力づくでの歯磨きにはいいことが一つもありません。
—歯ブラシや歯磨きペーストは、人間用のものでも良いのでしょうか?
人間用の歯磨きペーストは、吐き出すことを前提に作られてます。刺激も強いので、歯磨きペーストは犬用のものを使ってください。犬用の歯磨きペーストは、犬にとっておいしく感じる味付けがされているので、歯磨きに対する抵抗感も薄れます。
また歯ブラシや歯磨きシートも専用のものが販売されていますが、たとえば軍手の指先を切って利用したり、カーゼを指に巻きつけたりしても良いと思いますよ。
—いつごろから歯磨きを始めればよいのでしょうか。永久歯に生え変わってからですか?
犬は、大体生後7~8ヶ月で永久歯に生え変わりますが、歯磨きに慣れさせるという意味で、3~4ヶ月のときから始めたほうが、後々楽になるのでオススメです。
—大型犬と小型犬では、どちらが歯周病になりやすいですか?
小型犬は顎が小さいので、乳歯が抜け切る前に永久歯が生えてくる場合があります。そうすると、歯が重なった部分に汚れがたまりやすくなるので、歯周病になりやすくなる可能性はありますね。
また小型犬の歯磨きは、飼い主の膝の上に仰向けにして口を開けて行うことが多いので、その姿勢に慣らすのも大変かもしれません。
—歯磨きガムなど、歯ブラシ以外の予防グッズもありますが、効果はどうでしょうか?
歯石を付きにくくするフードやおやつ、口腔内の環境を整えるサプリメントなどが販売されていますね。どのような効果があるかは明言できませんが、ある程度の予防はできるかもしれません。
口の中が乾燥すると菌が繁殖しやすくなるので、唾液を増やすという意味でガムなどを与えるのは良いと思いますよ。
—人間の場合「食後にお茶を飲むと虫歯予防になる」と言われますが。
犬にカフェインは危険なので、それはやめてください。乾燥防止のために、お水をたくさんあげてくださいね。
—動物病院ではなく、トリミングサロンなどでも歯磨きや歯石取りのメニューを見かけます。
「無麻酔で歯石を取ります」とうたっているところもありますが、ほとんどの場合、表面的な歯石を取っているだけで、歯周ポケットの治療にはなっていません。
歯石を取る治療はかなり痛みが伴うので、麻酔無しでは無理なんです。
「サロンで歯石を取っているから」と安心していたらいつのまにか歯周病が悪化してしまった、ということもあり得ますので、注意が必要ですね。
—人間の歯周病菌が犬にうつったり、またその逆もありますか?
口腔内の菌は、犬と人とで共通するものもあるので、口の周りを舐めさせたりするのはやめた方が良いでしょう。乳児や高齢者、また口の中に切り傷がある場合などは、細菌が入って炎症を起こす恐れがあります。
飼い主さんの中には、犬に歯磨きが必要だということ、犬も歯周病にかかるということをご存知ない方もたくさんいらっしゃいます。
まずは定期検診の際に口腔内を確認していただき、治療が必要な場合は獣医師の指示を仰いで、適切な治療を行ってください。
歯周病は、日々の予防が大切です。犬の歯磨きは大変かもしれませんが、しっかり頑張ってくださいね!
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