2021/07/02
人間の良き友である犬ですが、時には人間を上回る力で行動したり、鋭い牙で何かを傷つけたりしてしまう可能性もあります。愛犬が他人や物を傷つけてしまったら、飼い主はどうすればいいの?トラブルを未然に防ぐための対策は?
今回は、ペットに関するトラブルとその賠償金について考えてみましょう。
「見知らぬ子どもに撫でられて、噛みついてしまった」「じゃれるつもりで飛びついて、相手にケガをさせてしまった」……。犬を飼っていると、時にはこのようなトラブルに出くわします。
いつもは人懐こい犬でも、不意に触られたり、自分のテリトリーを侵されそうになったりすると、攻撃的な一面を見せることがあります。
また犬は噛む力が強いために、犬自身が意図しないところで、相手に痛みを与えてしまうこともあるのです。
環境省の調査によると、犬による咬傷事件件数は減少傾向であるものの、それでも令和元年度は4,274件発生し、被害者数は4,410(人以外への被害者数211を含む)となっています。そのうち飼い主や家族への被害は229人(うち死亡1人)で全体の約5%であるのに対し、それ以外の人への被害は3,970人と、約90%にも上ります。
犬のトラブルは飼い主の責任であり、時には法的責任を問われる場合もあります。
もし飼い犬が人を噛んでケガをさせた場合は、飼い主が刑法第209条の過失傷害罪に問われます。過失傷害罪は親告罪なので被害者の告訴が必要となりますが、その場合は30万円以下の罰金または科料に処せられます。
また民法第718条には、「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」とあります。
飼い犬が他の犬に傷を負わせた場合は、刑事事件にはなりませんが、相手の飼い主から民事訴訟を起こされて損害賠償を請求される場合があります。
では、実際に事故が起きた場合、どの程度の賠償が必要になるのでしょうか。アクサダイレクトへ保険金請求があった事例から見てみましょう。
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<ケース1:3歳の小型犬が、よその犬の飼い主の手に噛みついた>
小型犬にリードをつけて散歩中、よその犬と吠えあいになった。相手の飼い主が2匹を引き離そうと自分の犬を抱きかかえた瞬間、小型犬が相手の飼い主に噛みついてしまった。
相手の飼い主は小指を骨折し、10日間の入院後3ヶ月間通院。治療終了後も患部が動かしづらいなどの後遺障害が残った。
→治療費・休業損害・慰謝料などで、約2,100,000円を支払う。
<ケース2:7歳の大型犬が、自宅に遊びに来ていた知人の腕に噛みついた>
自宅で大型犬に日常的にリードをつけて飼育しているが、来客中、何かの拍子にリードが外れてしまい知人の腕に噛みついてしまった。知人は腕を骨折し、50日間の入院治療となった。
→入院治療費・慰謝料などで、約580,000円を支払う。
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これらの賠償は、入っている保険によってはカバーされるものもありますが、補償対象外の場合もあります。
いずれにせよ、高額な賠償が発生するほどの大きな事故になることを、改めて認識する必要がありそうです。
対人間だけでなく、犬同士のトラブルにも注意が必要です。遊びがエスカレートすることもあれば、縄張り争いで喧嘩になったり、偶然ぶつかってしまってそれがケガにつながってしまうこともあります。同じ犬同士とは言っても大型犬と小型犬では力の強さも異なりますから、ちょっとの接触が大事故に発展することもあるのです。
アクサダイレクトへ保険金請求があった事例には、以下のようなケースがありました。
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<ケース1:7歳の中型犬が、大型犬に噛みついた>
リードをつけずに中型犬と散歩中、よその大型犬と喧嘩に。大型犬の耳に噛みつき、裂傷を負わせてしまった。
→治療費用として、約80,000円を支払う。
<ケース2:2歳の大型犬が、小型犬に噛みついた>
大型犬にリードをつけて散歩中、いつも仲良くしている小型犬がいたので安心して近づいたところ、突然噛みついてしまった。
→治療費用として、約37,000円を支払う。
<ケース3:1歳の大型犬が、中型犬に軽いケガをさせた>
大型犬を車に乗せようとした際、犬がリードから離れその隙に近くにいた中型犬を軽く噛んでしまい、首と尾に軽いケガをさせてしまった。
→治療費用として、約16,000円を支払う。
<ケース4:6歳の小型犬が、知人の小型犬に噛みついた>
小型犬と散歩中、出くわした知人が自分の犬を抱きかかえたまま屈んで撫でようとしたところ、抱かれていた小型犬に噛みつき、ケガをさせてしまった。
→手を出した知人側にも過失1割を認め、治療費用36,968円のうち33,300円を支払う。
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犬同士は仲が良いから、と飼い主が油断していると、思わぬ大ケガに発展することもあります。また、自分の飼い犬がケガをする側になることもありえます。犬同士が接触する際は、飼い主が注意深く見守りましょう。
ではこのようなトラブルを未然に防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。それには、飼い犬との日頃の関係性が重要となります。
(1)子犬のうちに、人や他の犬に慣らす
犬は見たことがないものや慣れていない場所を怖がります。知らない人や他の犬に対して、吠えない、噛まないようにするためには、外の環境に慣らしていく「社会化トレーニング」が重要です。特に子犬のうちからトレーニングを行い、社会化を通して怖いものが減ると、犬自身のストレスも減り、人間社会の中で快適に暮らしていくことができます。散歩中に他の犬と挨拶させたり、犬を飼っている友人と一緒に出かけたりするなど、無理のない範囲でトライしましょう。しつけ教室に参加するのもおすすめです。
また、トレーニング中に犬が苦手なことを見極め、飼い主さんが把握しておくことも大切です。例えば、大きな音が苦手、自転車に興奮するなど、わかっていれば先回りして事故を防ぐことも可能です。
(2)トレーニングの時はたくさん褒める
トレーニングを行うときは、決して怒らないようにしましょう。飼い主さんの怒りや焦りが愛犬を萎縮させ、信頼関係を損なってしまいます。上手にできたらたくさん褒めて、おやつをあげたり好きなおもちゃで遊ぶなど、犬が喜ぶご褒美をあげましょう。「うまくできるといいことがある」と認識できると、信頼関係の構築だけでなく、トレーニングの効率も良くなります。慣れてきたらご褒美の回数を減らし、ご褒美がなくても同じようにできるまで練習を繰り返します。子犬に比べ、大人の犬に教える場合は多少時間を要しますが、楽しみながら根気よく取り組みましょう。
(3)散歩・外出時は目を離さず、ペースを合わせて歩く練習をする
周囲の人のためにも愛犬の安全のためにも、外出時は必ずリードを着用してください。その上で、散歩中にアイコンタクトをとったり、ペースを合わせて歩くように意識しましょう。時々、愛犬を呼び戻したりして、いざというときに、飼い主さんの元に戻ってこられるようトレーニングしておくとよいでしょう。
他の犬と出会ったときは、離れた場所から飼い主さん同士で挨拶をした後、様子を見ながら近づけましょう。どちらかが興奮している場合は無理に近寄らず、距離を保ったまますれ違うようにしてください。
(4)犬が快適に暮らすためのハウストレーニング
来客等に備えて、犬がケージやハウスで快適に過ごせるよう、できれば子犬のうちからハウストレーニングを行っておきましょう。
扉が開いている状態からスタートし、全身が入ったらすぐにご褒美をあげます。はじめは、すぐに出ようとしますが、無理に押し込んだり、扉を閉めると、怖がってケージに近づかなくなってしまいます。慣れてきたら、数秒だけ扉を閉めてみて、落ち着いていられるか様子を見ます。これを繰り返して徐々に時間を延ばしていきます。愛犬のお気に入りのおもちゃやタオルを一緒に入れてあげると落ち着きやすいかもしれません。ケージをお気に入りの場所・安全な場所として愛犬に認識してもらうことが大切です。叱って閉じ込めるなど、罰として使ってはいけません。
来客時は、相手と愛犬の安全のためにも、基本的にはケージ内で過ごさせるほうがよいでしょう。
犬は好んでトラブルを起こすわけではありません。しかし、人間と共に暮らすための社会性が身についていなかったり、恐怖心などの要因から、事故につながってしまうこともあります。万一、相手にケガを負わせてしまうと治療費や賠償金など多額の費用が発生する恐れがあります。
愛犬を家族に迎えたら、まずは愛犬が落ち着ける場所を作ってあげ、社会化トレーニングを行うなどして、未然に事故を起こさないように努めましょう。予期せぬ事故に備えることは、社会に対する飼い主さんの責任でもあり、愛犬との安全で幸せな暮らしを守ることにもつながります。
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動物病院勤務の経験がある獣医師、アクサダイレクトのペット保険業務に携わる犬好き・猫好きの在籍する編集部です。ペットとの暮らしに役立つ情報から、犬や猫に関する健康・しつけなどの大切な知識、しぐさからわかるおもしろ豆知識など、専門的な視点から幅広く情報をお届けします。