2016/12/29

獣医さんが教える、犬の認知症の主な症状と介護・予防方法

2016/12/29

獣医さんが教える、犬の認知症の主な症状と介護・予防方法

 人間同様にペットの高齢化が進み、認知症にかかるペットも少なくありません。
 もし愛犬が認知症になってしまったら、飼い主さんはどのようなお世話が必要なのでしょうか?
 また認知症を予防するために、何かできることはあるでしょうか?
 獣医師の三宅先生から、アドバイスをいただきました。

犬の認知症 どんな症状?

—最近は人間同様に犬の高齢化が進んでいると聞きますが、犬も認知症になるのでしょうか?

 7歳以上が「シニア犬」と言われていますが、高齢になると犬も認知症になることがありますね。
 日本犬、特に柴犬がなりやすいというデータがありますが、それ以外の犬も大型・小型関係なく、認知症の症状が見られる犬は少なくない印象があります。

柴犬は認知症になりやすいと言われますが、原因はわかりません。

柴犬は認知症になりやすいと言われますが、原因はわかりません。

—犬が認知症になった場合、どのような症状が出るのでしょうか?

  • ご飯をしょっちゅう食べたがる
  • 生活が昼夜逆転する
  • 抑揚のない、単調な声で鳴き続ける
  • 狭いところに入りたがり、入って身動きが取れなくなる
  • 同じところをグルグルと歩き回る
  • 飼い主の呼びかけに反応しなくなる
  • 出来ていたことができなくなる

 このような症状が出たら、認知症が疑われます。

—しつけの出来と認知症には、関係がありますか?

 それは関係ありません。しっかりしつけられた犬でも、認知症になると覚えたことを忘れてしまうことはよくあります。
 飼い主さんのしつけが悪かったから認知症になる、ということは決してありません。

認知症かな?と思ったら、まずは動物病院へ!

高齢の犬が普段と違う行動を取ったら、認知症かもしれません。

高齢の犬が普段と違う行動を取ったら、認知症かもしれません。

—もしかして認知症かな?と感じたら、動物病院に行ったほうが良いのでしょうか?

 「年を取って認知症になるのは当然だ、仕方がない」と放っておいてしまうと、治る病気も見過ごされてしまうことがあるんです。

 飼い主さんが「ちょっと変だな?」と感じたら、一度動物病院に行ってください。

—動物病院では、どのような認知症の検査があるのでしょうか?

 認知症チェックのガイドラインや、それぞれの獣医さんが使っているチェックリストで、症状を確認します。

—脳のCTなどを撮ることもありますか?

 脳腫瘍など、なにか脳に大きな問題が起こっていると予測される場合は撮ることもありますが、全身麻酔をかけないと撮影できませので、認知症を疑っていきなりCT検査をすることはあまりないでしょう。

—飲み薬などもありますか?

 症状の緩和を目的としてサプリメントをすすめたり、場合によっては精神安定剤を使用することもあります。

認知症の犬の介護、どうすればいい?

何度も食べたがる場合は、1回の量を減らして食事回数を増やしましょう。

何度も食べたがる場合は、1回の量を減らして食事回数を増やしましょう。

—家庭でのケアですが、どのようにすれば良いでしょうか。まずは食事面について教えてください。

 特に食べづらそうにしていなければ、食事内容を変える必要はありません。
 何度も食べたがって鳴く場合は、1回の量を減らして、その代わりに回数を増やすようにしましょう。

—生活環境の面ではどうでしょうか?

 壁に頭をぶつけたり、狭いところに入り込んでバックで出られなくなってしまう事が多いので、リビングに円状にサークルを設置してその中で過ごせるようにするなど、生活環境に合わせて工夫をすると良いですね。

 子供用のビニールプールを使ったり、クッション性のあるウレタンマットをサークルに取り付けたりして、ケガを予防している飼い主さんもいらっしゃいます。

—移動範囲を制限すると、ストレスになったりしませんか?

 そこは、あまり気にしなくて大丈夫だと思います。
 認知症の犬は、飼い主さんがちょっと目を離した間に家具の間に挟まってしまったり、ケガをしてしまうことがよくあります。そうなると飼い主さんは、一日中犬の様子を見守っていなくてはならず、とても大変ですよね。サークルの中は安全な空間なので、飼い主さんにとっても安心です。

夜中に吠えることを悩む飼い主さんが、たくさんいます。

夜中に吠えることを悩む飼い主さんが、たくさんいます。

—夜中に起きて吠えてしまうときは、どうすれば良いでしょうか?

 なるべく昼夜逆転の生活をさせないことが大切です。昼間に寝ていたら刺激を与えて起こしたり日光浴をさせたりして、夜は寝かせるようにしましょう。

 夜中の鳴き声が近所迷惑になっているのでは、と気にする飼い主さんも多くいらっしゃいます。あらかじめご近所の方に「認知症なので」と事情をお話して、ご理解いただくことも必要ですね。そのためにも、日頃からご近所の方と円滑なコミュニケーションをとることが大切だと思います。

—急に攻撃的になったり、噛みついたりはしますか?

 認知症の症状としてはありませんが、目や耳が悪くなっていると、急に触れられると怖がります。その恐怖から攻撃的になることも、あるかもしれません。

ペットシーツで排泄できるようにしておくと、年を取ったときに安心です。

ペットシーツで排泄できるようにしておくと、年を取ったときに安心です。

—排泄の世話も大変になってきますよね。

 そうですね。犬用のおむつや、人間用のおむつに尻尾を通す穴を開けて使う飼い主さんもいらっしゃいます。

 外じゃないと排泄したくない犬もいますが、足腰が弱くなっていると連れていけなくなります。
 元気なうちから、室内のペットシーツでも排泄できるように習慣づけておくことも大切ですね。

外に散歩に行って、刺激を与えることも大切です。

外に散歩に行って、刺激を与えることも大切です。

—認知症になったら、あまり構わずにそっとしておいたほうが良いですか?

 いえ、むしろ今まで通りに接して、適度な刺激を与えるほうが良いですね。認知症になったからといって、静かな部屋でばかり過ごさせたり、放っておくのはあまり好ましくありません。

 散歩に行きたがらないかもしれませんが、カートに乗せるなどして、外に連れ出してあげるのも良いですよ。

—認知症の犬と共に生活するにあたり、飼い主さんが心がけておくことはなんでしょうか?

 認知症の犬の介護は大変だと思いますが、飼い主さんが疲れていると、犬にとっても良くありません。
 一人で抱え込まずに、日中預かってくれるサロンやペットシッターさんなど、頼れるところには頼って、飼い主さんがいつも明るく元気でいられることが一番大切です!

認知症予防のために、今からできることは?

—認知症を予防するために、できることはありますか?

 脳に刺激を与える、脳が活性化する生活をすることですね。
 たとえばいつも同じ時間・同じコースを散歩せずに時々変えてみたり、ドッグランで他の犬と触れ合うことも良いですよ。
 毎日同じコースを散歩することは、しつけの観点からも望ましくありません。

「お座り」や「待て」などの基本的なしつけも脳の刺激になります。

「お座り」や「待て」などの基本的なしつけも脳の刺激になります。

—脳を活性化させる、オススメのゲームなどはありますか?

 そうですね。たとえば「お座り」や「待て」を1日5分、3回程度行うだけでもいいんです。

 頭を使う遊びが好きな犬であれば、紙コップを3つ程度用意して、その中に一つだけトリーツ(ご褒美のおやつ)を入れ、どこにあるか当てさせる……などのゲームもオススメですね。上手にできたら、褒めてあげてください。

 犬は、人の役に立つことが喜びだと感じる生き物です。飼い主が出した指示を達成して、褒められる。その一連の流れが、脳への良い刺激につながります。

—マッサージなども効果がありますか?

 マッサージは血行が良くなりますし、犬は触れられることを喜びます。
 ただ、あまり強く押しすぎないように注意してください。大体、4g程度の力で良いとされていますので、優しく触れて、撫でるだけでも十分ですよ。

 もし愛犬が認知症になったとしても、変わらない愛情を持って、毎日を大切に過ごしたいですね。

三宅亜希先生
お話しいただいた先生 /
三宅 亜希 先生
日本で唯一の会員制電話どうぶつ病院「アニクリ24」院長。都内の動物病院にて小動物臨床に従事したのち現職。繊細なコミュニケーション力を生かし、小動物医療の現場で毎日寄せられている様々な相談に応じている。
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