2020/10/15
毎日の散歩だけなく、ドッグランや外遊びで他の犬と触れ合う機会の多い犬は感染症のリスクが高まります。風邪のような軽いものから、重篤になると死に至る可能性がある感染症まで様々な感染症があります。
なぜ狂犬病は義務化されているのか、混合ワクチンでどのような感染症から愛犬を守ることができるのでしょうか、その種類や費用、接種時期についてもご紹介します。
猫の予防接種についてはこちらをご参照ください。
→感染症から猫を守るための[知識]とワクチンの[費用]
犬の予防接種は、大きく分けて2種類あります。
接種が義務付けられている「狂犬病予防接種」と、飼い主が任意で行うその他の感染症予防接種です。
これらの予防接種は、犬を感染症から守るだけでなく、犬から犬への感染や、犬から人に感染する「人獣共通感染症」を防止する役割もあります。
またドッグランやペットホテルなど、複数の動物が集まる施設を利用する場合は、予防接種をしていないと利用を断られるケースもあります。
年に一回、飼い犬に狂犬病の予防接種を受けさせることは、狂犬病予防法によって義務付けられています。狂犬病は、発症すると治療法はなく、ほぼ100%死に至ります。しかも犬だけでなく、猫やネズミ、そして人間などほとんどすべての哺乳類に感染する「人獣共通感染症」です。日本国内での狂犬病発生事例は1957年以来なく、また海外で感染して日本国内で発症した事例も、1970年と2006年に各1例あるのみです。
しかし、中国や東南アジアでは年間100人以上が狂犬病で亡くなっています。日本国内で発生していなくても、海外旅行中や海外から輸入された動物などが感染原因となる可能性もあります。犬だけでなく人間やその他の哺乳類を守るためにも、必ず接種を受けるようにしましょう。
狂犬病の予防接種は、自治体による集団接種と、動物病院での個別接種があります。集団接種については、市町村に登録されている犬の鑑札情報にもとづいて、飼い主さんに案内が送付されます。実施期間は4月~6月ですが地域ごとに日程が異なります。地元の広場や公園などで行なわれ、費用は3,000円程度に設定されています。集団接種に行かない場合は動物病院で個別接種することもできますが、費用はそれぞれの病院によって異なり、集団接種よりも高額になることが多いようです。
いずれの場合も、予防接種をすると「注射済票」が交付されます。集団接種について詳しくは、お住いの市町村窓口までお問い合わせください。
飼い主さんが任意で受ける感染症予防接種は、一般的に「混合ワクチン」です。混合ワクチンは組み合わせによって、2種混合から11種混合まで種類があり、複数の病気に効果的なワクチンを組み合わせ、一度に接種します。
下記のワクチンのうち、致死率の高い感染症を防ぐためにすべての犬に接種するように勧告されているワクチンは「コアワクチン」、生育環境によって接種を推奨されているワクチンは「ノンコアワクチン」と分類されています。
9種以上のワクチンは、犬レプトスピラ症の血清型が追加になります。追加になる内容は、製薬会社によって異なります。
コアワクチンが対象としている感染症は、「犬ジステンパー・犬伝染性肝炎・犬アデノウイルス(II型)感染症・犬パルボウイルス感染症」の4種類です。
感染した犬の目ヤニ、鼻水、唾液、排泄物との接触やくしゃみなどの飛沫物によって感染します。初期症状は目ヤニ、鼻水、発熱、食欲の低下などで、重篤化すると麻痺や痙攣などの症状が出ます。
ニホンオオカミの絶滅原因となった疾患として有名で、犬の致死率は50~90%と高く、発症すると有効な治療法はありません。完治しても、神経症状などの後遺症が出ることがあります。
犬アデノウイルスI型の感染によっておこる伝染病で、感染した犬の鼻水や唾液、排泄物に接触することで感染します。嘔吐や発熱、下痢、腹痛などの症状が表れます。
軽症の場合は鼻水が出る程度ですが、重篤化すると肝臓の機能不全や低血糖に由来する神経症状が起こることもあります。
また回復しても半年以上尿中にウイルスを排出すると言われており、注意が必要です。
「犬伝染性喉頭気管炎」とも言われ、咳やくしゃみなど風邪に似た症状が出ます。I型(犬伝染性肝炎)よりも症状が軽く致死率も低いとされていますが、他のウイルスや細菌との複合感染により重篤化する場合もあります。
感染した犬の便や嘔吐物に接触して感染します。激しい下痢や嘔吐、発熱、脱水症状などが表れ、重症になると血便が出ることもあります。また下痢や脱水の悪化によりショック症状を起こして死に至ることもあり、特に子犬の致死率が高くなっています。
また妊娠中のメス犬が感染すると、流産や死産の原因になります。
居住地域や生育環境など、必要に応じて接種したほうがよい「ノンコアワクチン」で予防できる感染症は、以下の通りです。
「ケンネルコフ」とも言われ、咳や発熱、鼻水などの重い風邪のような症状が出ます。単独での致死率はあまり高くありせんが、他の感染症との複合感染で症状が重くなります。
感染した犬の排泄物を舐めたりすることによって感染します。病原性は弱く、成犬の場合は感染してもほとんど症状が現れませんが、犬パルボウイルス感染症など腸炎を引き起こすウイルスと複合感染すると重篤な状態になることがあります。
病原性レプトスピラ菌に感染した動物の尿で汚染された土や水を口にしたり、また触れたりすることで感染します。症状が出ない「不顕性」、腎炎や出血性胃腸炎などになる「出血型」、痙攣や嘔吐、黄疸などが出る「黄疸型」があり、人間にも感染する「人獣共通感染症」です。
レプトスピラ菌には250以上の血清型があり、混合ワクチンに入っている血清型は「イクテロヘモラジー(コペンハーゲニ―)」「カニコーラ」「ヘブドマディス」「オータムナリス」「オーストラリス」などです。
何種類混合のワクチンを接種すれば良いのかは、一概には決められません。室内犬であるか室外犬であるか、ドッグランなど多くの犬が集まる場所に行くか、海や山などに行くか、地域でその感染症が流行しているのか……など、様々な飼育環境によって、何を接種するのかを判断する必要があります。
お住いの地域の動物病院で流行している感染症などの情報を確認し、獣医師と相談した上で接種内容を決めてください。
ワクチン接種の費用は動物病院によって異なりますが、2種混合で3,000円~5,000円程度、7種以上になると7,000円~10,000円程度です。ワクチン接種は病気の治療ではなく、健康な状態で行う「予防行為」となるため、ほとんどの場合ペット保険の対象外となっています。
ワクチンによって作られる免疫は、そのまま一生持続できるわけではありません。ワクチンや感染症の種類によって異なりますが、通常、複数回接種が必要となります。
一般的には、生後1年までの子犬期に3回、その後1年~数年に1回、継続して接種します。かかりつけの獣医さんに相談しながら、適宜接種を行ってください。
では犬の感染症は、どの程度の割合で発症しているのでしょうか。
『伴侶動物ワクチン懇話会』の「犬と猫の感染症調査」によると、2013年9月から2015年8月の2年間に全国600軒の動物病院のうち、56.8%の病院で何らかの感染症を診断していることがわかりました。
感染症は、愛犬の身近なところに潜んでいます。
感染して取り返しのつかないことになってしまう前に、かかりつけ医と相談しながら、定期的な予防接種を受けてくださいね。
動物病院勤務の経験がある獣医師、アクサダイレクトのペット保険業務に携わる犬好き・猫好きの在籍する編集部です。ペットとの暮らしに役立つ情報から、犬や猫に関する健康・しつけなどの大切な知識、しぐさからわかるおもしろ豆知識など、専門的な視点から幅広く情報をお届けします。