2017/08/08
犬と比べると猫は一般的にはあまりよだれを垂らすことはありません。
だからこそ「あれ? うちの猫がよだれを垂らしてる」というときは、不調のサインかもしれないので、その変化を見逃さないことが大切です。
猫がよだれを垂らす原因にはさまざまなものがあります。病気などの場合もあるため、その対策もあわせて紹介します。
通常、唾液は食べ物のにおいや、口の中に物が入って粘膜が物理的に刺激されることで分泌が起こりますが、口の痛みや異物感によっても分泌されます。具体的には口内炎、歯垢や歯石の沈着による歯周病、外傷、腫瘍などが挙げられます。
猫の口内炎は、口腔内細菌の関与、ウイルスの関与、免疫異常などが原因だと考えられております。そのため、強い痛みから食事が食べられなくなることもあります。
また、高齢の猫では、口の中に悪性腫瘍(扁平上皮癌、悪性黒色腫など)が発生することがあります。この場合も腫瘍の異物感や痛みによって、唾液が過剰に分泌されます。また口が閉じづらくなるため、よだれが口の外に溢れてしまうことがあります。
苦い内服薬を飲ませようとして、大量のよだれで押し出されてしまった経験のある方もいらっしゃるかもしれませんが、苦いもの、すっぱいもの、辛いもの、刺激があるものなどを舐めたり食べたりした場合、過剰によだれが出ることがあります。
よだれをたくさん出したり、顔を振ってよだれを飛ばしたりしているときは、何か変なものを舐めてしまっていないか、周囲を確認してみてください。
固形物を喉や食道に詰まらせてしまった場合、粘膜への機械的な刺激から過剰なよだれが出ることがあります。また、上顎にものが挟まってしまい口が閉じずによだれが出ることもあります。今まで普通にしていた健康な猫が突然大量のよだれを垂らし、落ち着かない様子があるようだったら真っ先に誤飲を疑いましょう。
猫は、普段から飲み込んだ毛玉などを吐きますが、1日3回以上の頻繁な嘔吐が連日続くと胃酸によって食道がただれることがあります。このように逆流した胃酸によって食道炎を起こしている猫では、食道粘膜の刺激によってよだれが増えます。頻繁な嘔吐や食欲不振、げっぷをする様子がある猫では食道炎を疑います。
また、猫はもともと唾液が少ない動物のため、固形物を飲み込むことが苦手です。例えば錠剤を与えるときに食道の途中ではりつき、留まってしまうために異物感からよだれが出る場合や、一部の抗生剤の錠剤は食道にはりつくと食道炎を起こす可能性もあります。処方された錠剤など、家庭で固形物を与えることがある場合には、必ず多めに水を飲ませるようにしましょう。
暑い季節など、室温や湿度が高い状態では猫も熱中症を起こすことがあります。猫は汗をかけないため、体を舐め唾液で毛を濡らすことにより気化熱で体温調節をしますが、効率があまり良くなく、体温調節は苦手です。熱中症が重度になると、脱水症状をはじめとした全身症状が現れ、ぐったりと虚脱し、よだれを出すことがあります。この場合、早急な救急対応が必要ですので、動物病院で獣医さんの処置を受けましょう。
神経症状としてよだれを出すことがあります。その原因はさまざまですが、例えばてんかん、脳障害(先天性、外傷、感染症、腫瘍、炎症など)、中毒、低血糖、高血糖、電解質異常、腎疾患、肝疾患などが挙げられます。これらの原因のうち「腎臓・肝臓のはたらきの低下」と「中毒による神経症状」について詳しく説明します。
6-1. 腎臓・肝臓のはたらきの低下(腎疾患、肝疾患)
腎臓や肝臓は、体内の有害物質を解毒して体外に排出する働きをしています。腎機能や肝機能の活動が低下している場合には、血中に有害物質が残ったまま体内を循環することになります。
具体的には、腎不全が進行した尿毒症や、肝不全によるアンモニア中毒によって脳神経にダメージが起こり、神経症状や嘔吐、大量のよだれといった症状が現れます。この場合、すっぱい臭いやアンモニア臭を伴う口臭が生じます。
もうひとつ、まれな疾患ですが、生まれつき肝臓に血管異常を持つ「門脈体循環シャント」という病気でも、よだれが見られることがあります。この場合、1歳前後くらいの若い猫が食後すぐにふらついたり、大量のよだれが現れたりといった特徴が挙げられます。
6-2. 中毒による神経症状
農薬や殺虫剤に含まれる有機リン剤などの化学物質には副交感神経毒があり、誤って猫が服用してしまった場合には過剰なよだれと痙攣、呼吸困難といった症状が現れます。田畑が多い地域ではこれらの薬品が散布されている場合があるので、室外の環境にも注意をする事が大切です。
この他にも、カカオに含まれるテオブロミンという成分には、興奮作用があります。猫の体内では代謝されにくいため、誤食してしまった場合に過剰な興奮作用によりよだれや痙攣が現れます。一匹ごとに感受性が異なりますが、敏感な猫の場合は死亡する恐れもあるのでカカオを含むチョコレートなどの食品は猫に与えないようにしましょう。
口のトラブルについては、飼い主さんが日頃のケアを徹底することで予防できるものもあります。
■口内炎の予防
猫の口内炎は口腔内細菌の関与、ウイルスの関与、免疫異常などが原因だと考えられています。これらすべての予防はなかなか難しいですが、口内炎の原因の一つであるカリシウイルスはワクチンで予防することができます。またあわせて、口腔内を清潔にしておくことも大切です。
口内炎を発症してしまった場合は、病院でのスケーリング(歯石除去)を行い、口腔内を綺麗にし、抗生剤、消炎剤、ステロイド剤、インターフェロンなどの薬を使用することが多いです。しかし、なかなか良くならなかったり、再発してしまったりする場合は、全ての歯を抜歯する方法をとることもあります。
■歯垢や歯石沈着による歯周病の予防
日頃のデンタルケアで歯垢の沈着を防ぎ、歯周病を予防できます。
歯ブラシが理想的ですが、奥歯のケアが難しい場合は、歯垢が付きにくいように工夫がされたフードや、歯磨き効果のある成分を配合したフードも販売されていますので、そうしたものを検討するのもよいでしょう。また、ウェットフードよりもドライフードの方が歯垢は付きにくいため、与えるフードのタイプを見直すこともよいでしょう。
誤飲・刺激物の摂取・中毒・熱中症については、飼い主さんが事故防止を徹底することで予防できます。
■熱中症の予防
熱中症に関しては、まず室温、湿度を適切に保ちましょう。単に温度・湿度を下げるだけでなく、風通しをよくするなど、空気の循環をつくってあげることも大切です。また、新鮮な飲み水がいつでも飲めるように準備しておきましょう。
■誤飲・刺激物の摂取の予防
誤飲に関しては、喉や食道に詰まってしまいそうな物(豆類や電池、おもちゃのパーツなど)や中毒を起こすような食品を与えないことはもちろん、何かの拍子で口に入ったりしないよう保管方法についても注意することが大切です。
また、おやつを与えるときも、飲み込みやすい形状や大きさに配慮する事が必要です。錠剤やカプセル剤の内服薬やサプリメントを与える場合には、多めの水分とともに摂取するようにしましょう。特に、カプセル剤は喉にはりつきやすいので注意が必要です。
■中毒の予防
中毒については、何を飲んだ・食べたのか分からないことが多いです。大量のよだれがあり異物や毒物摂取の疑いがある場合には、ただちに動物病院で受診してください。
中毒物質の摂取により、よだれや神経症状(ふるえ、虚脱、失禁、呼吸の乱れ)などがある場合には、夜間であっても夜間救急などを速やかに受診してください。
他にも、田畑が多い地域では、散布されている農薬や殺虫剤といった化学物質による毒物の摂取に注意しましょう。
肝臓や腎臓の不調は、症状が出る時点ではかなり進行していることが多いです。特に、猫は少々の体調不良は隠す傾向があり、傍目では分かりにくいものです。よだれが出るレベルの症状が現れる腎疾患や肝疾患は、末期状態になっている可能性があります。
猫は腎臓の自己修復を行うためのタンパク質がうまく機能しないため、その他の哺乳類に比べて加齢とともに腎不全になりやすいという研究報告があります。そのため、どんなに健康に気をつけていても、程度の差はありますが大半の猫が腎不全を起こしてしまうと言われています。血液検査と尿検査を組み合わせて行うことで腎臓の状況が診断できるので、早期発見された腎不全は適切な投薬を行うことで進行を緩やかにし、腎機能を長く維持することができます。
肝臓については、中高齢になると人間と同じように肝炎や肝臓腫瘍になるリスクがあり、これによって肝機能が低下することがあります。血液検査を定期的に行い、不調を早期発見できるように努めましょう。また肝炎や肝臓腫瘍では、元気がなくなる、発熱、嘔吐を繰り返す、黄疸が出るなどといった症状を伴います。普段と違う様子があったら、動物病院で受診してください。
口内炎予防と合わせて、子猫のうちから適切なワクチンプログラムと血液検査、7歳を過ぎたら半年に1度を目安とした血液検査で、早期発見・早期治療を心がけましょう。
猫は犬と比較するとよだれが少なく、またキレイ好きのため口の周りを含め自分で毛並みをケアする傾向にあります。そのため、通常よだれが口から溢れたり、よだれで汚れたままだったりということはあまり見られません。したがって、よだれが多いと感じたときは、病気や誤飲などのトラブルが原因になっていることが想定されます。
年代を問わず、多くの場合は、口内炎や歯周病に関連した痛みや違和感がよだれの原因となります。健康な若い猫でも誤飲や中毒、熱中症により、よだれが出ることがあります。
そして中高齢を過ぎると腎臓や肝臓の不調、口にできる腫瘍などがよだれの原因として挙げられます。
多くの場合は、事前の危険予測と予防接種などで回避できるものですので、普段の生活環境に危険な個所が隠れていないか、改めて見直してみましょう。
動物病院勤務の経験がある獣医師、アクサダイレクトのペット保険業務に携わる犬好き・猫好きの在籍する編集部です。ペットとの暮らしに役立つ情報から、犬や猫に関する健康・しつけなどの大切な知識、しぐさからわかるおもしろ豆知識など、専門的な視点から幅広く情報をお届けします。