2020/10/30
犬や猫を飼う際には、不妊手術(避妊・去勢手術)が推奨されています。実は猫の避妊・去勢手術には、病気予防という大きな理由があります。今回は猫の避妊・去勢手術に関するメリットやデメリット、術後の注意点について、獣医師の三宅先生にうかがいました。
—なぜ猫には、避妊・去勢手術をした方が良いと言われているのでしょうか?
最大の理由は、避妊・去勢手術をすることによって、予防できる病気があるからです。発情すると、ホルモンの分泌により乳腺が刺激され、乳腺腫瘍になる可能性があります。そして猫の乳腺腫瘍は、ほとんどの場合悪性で、死に至る可能性のある病気です。
最初の発情の前に避妊手術を行った場合、かなりの確率で乳腺腫瘍を予防できるというデータもあります。
—乳腺腫瘍になるのは、メスだけでしょうか?
多くの場合はメスですが、オスでも乳腺腫瘍になることがあります。
—それ以外にも、予防できる病気はありますか?
メスの場合は、卵巣と一緒に子宮も取る場合が多いので、子宮の病気の予防にもなります。一般的に子宮の病気は犬に多いと言われますが、猫でもかかる場合もあります。
—その他に、避妊・去勢手術をするメリットはなんでしょうか?
発情しなくなるので、発情による大きな鳴き声やマーキング行動などを防ぐことができます。
また交尾ができないのに発情だけを繰り返すのは猫にとってストレスになりますので、ストレス防止という点でもメリットがあると思います。
猫の発情行動については「猫の発情期に出る行動は?変化や対処法を解説」もあわせてご覧ください。
猫の妊娠については「愛猫の妊娠・出産|妊娠前後の変化~出産準備などの基礎知識」もあわせてご覧ください。
—避妊・去勢手術は、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。
メスに行う避妊手術は、卵巣と子宮を切除します。中には卵巣のみを切除し子宮を残す獣医師もいますが、両方を切除するのが一般的です。
オスに行う去勢手術は、精巣を切除します。
—避妊・去勢手術によるデメリットはないのでしょうか?
ほとんどありませんが、強いてあげるとすれば、太りやすくなることでしょうか。ホルモンの影響や、発情行動でエネルギーを消費しなくなるので、太りやすくなるようです。手術前よりも食事カロリーを3割程度抑えた方が良いですね。避妊・去勢手術をした猫用の低カロリー食なども市販されていますので、工夫して食事を与えてください。
猫の餌については「猫の餌って何がいいの?適切な食事の回数、選び方から与え方まで」もあわせてご覧ください。
—持病があって避妊・去勢手術ができない、という場合もありますか?
時間がとてもかかったり大量の出血が予想されるような手術ではないので、よっぽどの状態でない限り大きな問題はありません。たとえば心臓に奇形があって血圧が保てないとか、麻酔を解毒する腎臓や肝臓に重大な疾患があるために手術をしないという選択肢もありますが、通常であれば問題なくできる手術です。
—飼い主さんから、避妊・去勢手術に対する相談を受けることもありますか?
そうですね、やはり麻酔を心配される方が多いのですが、術前検査で問題がなければまず大丈夫ですし、麻酔をかけている時間は、オスの場合は数十分、メスでも30分~1時間程度とごく短いですから、安心してお任せしていいと思います。
オスの場合はほとんどが日帰り~1泊ですし、傷口の皮膚縫合も必要ないことが多く、そのまま自然に傷口がふさがるのを待ちます。メスの場合は、日帰り~2泊入院します。
—病気になっていない臓器を切除することに、不安を感じる方もいるようですが…
確かにそう考える方もいらっしゃいますが、発症したら重病になってしまう病気を予防できることや発情行動を抑止するなど、それを上回るメリットがあります。
—避妊・去勢手術をするのに、適した時期はありますか?
大体生後7ヶ月前後に最初の発情がありますので、その前に済ませるのが良いでしょう。
—手術よりも先に、発情が来てしまったらどうすれば良いでしょうか?
発情中でも手術は可能ですが、獣医師によっては発情中の手術を行わない方もいますので、かかりつけの病院で相談してください。
—子猫ではなく、成猫に対しても手術は必要ですか?
もちろん、病気のリスク軽減にはある程度の効果がありますし、発情を抑えて穏やかに過ごすためにも、手術は必要です。
—一度手術をしたら、二度と発情はしないのでしょうか?
ごくまれではありますが、切除した卵巣の周りの組織が卵巣の代わりとなって、ホルモンを出すことがあります。そのような場合は、獣医師に相談してください。
また交尾を経験したことがあるオスは、去勢手術後も近くに発情中のメスがいると交尾行動を取る場合もありますが、実際に妊娠させることはできません。
—手術前後に、飼い主さんが気をつけることはありますか?
体調が良くないと手術ができないので、まずは体調管理ですね。
術後は傷口をいじらないようにエリザベスカラーなどを装着しますが、そのストレスで食事をしなかったり、トイレに行かなくなってしまうこともあります。そのような場合は、飼い主さんが見ているときだけ一時的にエリザベスカラーを外してあげてもいいでしょう。ただ、必ず再度装着するようにしてください。目を離した隙に術創を舐め壊して、傷口が開いてしまうことがあるからです。
術後、オスは3日~5日、メスは5~7日程度、抗生剤や消炎剤などが処方されることが多いです。メスや皮膚縫合をしたオスは、その後抜糸をします。抜糸が済むまでは、遠出やペットホテルに預けるなどは止めたほうが良いでしょう。
また多頭飼育をしていて、他の猫が傷口を舐めてしまうようであれば、隔離などしてください。
「手術」と聞くと不安に感じる飼い主さんもいらっしゃると思いますが、猫の健康のために必要な手術です。まずはかかりつけの獣医師に相談した上で、手術をご検討くださいね。