2020/10/30
犬は他の動物よりも「椎間板ヘルニア」にかかる割合が高いと言われています。椎間板ヘルニアとはどのような病気なのか、原因や予防法、治療法について獣医師の三宅先生にうかがいました。
—まず、「ヘルニア」とはどのような病気なのでしょうか?
「ヘルニア」と聞くと「椎間板ヘルニア」のことだと思われる人も多いかと思いますが、そもそもヘルニアというのは、体内のある器官が、本来あるべき場所からはみ出している状態のことを指します。おへそが出ている「臍(さい)ヘルニア」や、腸管が出ている「鼠径(そけい)ヘルニア」などがありますね。
椎間板とは、背骨の間にあるゼリー状の組織で、骨と骨の間でクッションのような役割をしています。椎間板は外側が「線維輪」という組織、内側が「髄核」という組織からなっています。椎間板が何らかの原因で逸脱し、脊髄を圧迫している状態が「椎間板ヘルニア」です。
椎間板ヘルニアが起こった場所により症状は異なりますが、肢に麻痺が起こり、場合によっては歩行困難になったり、排泄のコントロールができなくなったりします。
—なぜ犬が椎間板ヘルニアになってしまうのでしょうか?
椎間板ヘルニアになる原因としては、大きく二つあります。
一つ目は、加齢によるもの。年をとると線維輪が変質して亀裂が入り、そこから髄核が入り込みます。髄核が入り込むことでそのぶん線維輪が押し上げられ、今度は押し上げられた線維輪が脊髄を押してしまうことで、椎間板ヘルニアが起こります。
二つ目は、遺伝的なもの。「軟骨異栄養症」の遺伝子を持っている犬は、本来ゼリー状の髄核が、生まれつき固くなりやすいのです。固い髄核が線維輪を圧迫するため線維輪に亀裂が入り、髄核が線維輪から逸脱し、脊髄を圧迫します。
2019年7月~2020年6月「アクサダイレクトのペット保険」へ椎間板ヘルニアの治療により保険金の請求が多かった犬種としては、ダックスフンドやコーギーといった胴長の犬種が上位にランクインしております。また、日本で人気の犬種が数多くランクインしています。
—遺伝的な素因を持っているのは、どのような犬種なのでしょうか?
ダックスフンドやコーギーなど、胴長の犬種に多いですね。これらの犬種のように短足胴長な体型を作るためには、「軟骨異栄養症」の遺伝子が必要だったとされています。
—遺伝的素因を持っている場合は、生まれつき椎間板ヘルニアなのでしょうか?
子犬のときは、あまり発症しませんが、若齢で発症することはあります。
—大型犬より小型犬のほうが椎間板ヘルニアになりやすい、などの傾向はありますか?
あまり関係ないですね。小型犬は大型犬と比べて衝撃に弱いので骨折しやすい、などの傾向はありますが、だからと言って椎間板ヘルニアになりやすいかというと、そうでもありません。
—椎間板ヘルニアにならないように、何か予防法はあるのでしょうか?
遺伝素因の場合はある程度は仕方がありませんが、椎間板ヘルニアのリハビリには筋肉が必要なので、子犬のときからバランスの良い食事をして、適度な運動をしておくことが大事ですね。太っていると関節を痛めやすいので、スリムな標準体型を維持するように、心がけると良いでしょう。
また、二本足で立たせるなど、犬にあまり無理な姿勢をとらせないことも大切です。抱っこをするときも、仰向けや、両腋の下に手を入れて立たせるような形の「縦抱き」は、背中に負担がかかりやすいです。基本的には首の下とおしりの下の四肢の間に腕を入れて、床と背中が平行に近い状態になるように抱っこするのが良いでしょう。
—移動の際、キャリーなどに入れるのも体の負担になりますか?
リュック型のキャリーなどもありますが、下に固い素材が入っていて、中でおすわりができるのであれば大丈夫です。
—生活環境で気をつけることはありますか?
床が滑りやすいと膝や関節に影響があるので、なるべく床は滑りにくい状態にしてあげるほうが良いですね。
—愛犬にどのような症状が出たら、椎間板ヘルニアが疑われるのでしょうか?
腰椎部の椎間板がヘルニアになったら後肢が、頚椎部の椎間板がヘルニアになったら前肢に麻痺が出てきます。肢を擦るように歩くなどの歩行異常があったり、ソファに飛び乗らなくなった、長時間の散歩を嫌がるようになった、などの兆候があれば椎間板ヘルニアの可能性がありますので、受診をおすすめします。
—椎間板ヘルニアになっていたら、脚を触ると痛がりますか?
麻痺している肢は触っても痛がりませんが、背中などの患部を触ると痛がりますね。
—椎間板ヘルニアが、他の疾患を誘発することもありますか?
麻痺している肢に傷ができて外傷になったり、排泄のコントロールができないために、常に尿で濡れたような状態になってそこから皮膚炎になったり、膀胱炎になったりすることもあります。
—椎間板ヘルニアの場合は、どのような治療をするのでしょうか?
重症度にもよりますが、軽い麻痺の場合はステロイドなどの内服薬で炎症を抑えることもあれば、外科手術で根本治療をする場合もあります。
—軽症の段階で治療がうまくいけば、完治するのでしょうか?
外科手術により良くなりますが、軽度の麻痺が残るようなこともあります。大切なのは術後管理やリハビリです。リハビリは飼い主さんも一緒にがんばっていただく必要があることが多いです。
また病院によっては、鍼治療を行うこともあります。
—犬にも鍼治療があるのですか?
はい。古くから鍼は、競走馬の治療にもよく用いられていますね。
椎間板ヘルニアだけでなく、皮膚疾患や糖尿病などの内臓系の病気にも、鍼治療を行う獣医師はいます。
—手術後は、どのような生活になるのでしょうか?
先ほどもお伝えしたように、リハビリが必要になります。日本ではまだ動物のリハビリ専門施設は少ないのですが、大きな病院にはリハビリ科が設置されていますね。プールの中での歩行訓練や、バランスボールを使った筋力トレーニングなどです。
また、家庭でも積極的にリハビリを行うように指導されます。
椎間板ヘルニアは、犬に特に多い病気です。兆候が見られたら、すぐに獣医師に相談して、早目に治療を開始しましょう。