2017/10/24
「動物に触ったらよく手を洗いましょう」と言われますが、それは動物から伝染する病気を予防するためです。もしかしたら可愛い猫から、何らかの病気が飼い主さんに伝染する可能性だってあります。今回は、獣医師の三宅先生に猫から人間に感染する病気についてうかがいました。
—動物から人間に伝染する病気には、どのようなものがあるのでしょうか?
動物から人間に感染する病気を「人獣共通感染症」と言います。感染源は細菌、真菌(カビ)、原虫、寄生虫など様々です。猫から伝染する可能性がある代表的な病気について、ご説明します。
■細菌が原因となるもの
サルモネラ症
食肉や卵を介しての感染が主ですが、猫をはじめ、犬やウサギ、サル、鳥類、は虫類のフンに細菌が付着して感染することもあります。
猫が感染した場合、子猫では下痢や嘔吐をしますが、成猫だと症状があまり現れません。
人間の場合も同様に、急性胃腸炎を起こします。健康な成人であれば多少感染しても症状が現れませんが、幼児や老人の場合は菌量が少なくても症状が現れる場合があります。
猫ひっかき病
猫に咬まれたり、引っかかれたりして感染します。
主に子猫が感染している場合が多いですが、猫自身には症状が現れません。しかし人間に細菌が入ると、傷口に近いリンパ節が腫れて痛みが出ます。
Q熱
猫のほか、犬や牛、羊の尿やフンなどの排泄物から感染します。
猫や犬にはほとんど症状が現れず、人間の場合もほとんど症状が現れないか、多くの場合は軽い呼吸器症状でおさまります。
パスツレラ症
パスツレラは、健康な猫や犬の口の中や爪に日常的に存在する“常在菌”です。当然、猫には何の症状も現れませんが、人間が咬まれたり引っかかれたりすると菌が体内に入り、傷口が腫れることがあります。
カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症
犬や猫に咬まれたり、引っかかれたりして感染します。
動物にはほとんど症状が現れませんが、人間に感染すると発熱、腹痛、吐き気などの症状があり、重症化すると敗血症や脳髄炎になることがあります。海外の症例で、お年寄りが飼い犬に咬まれて亡くなった事例があり、注目を集めました。
■真菌が原因となるもの
皮膚糸状菌症
糸状菌というカビの一種が原因です。動物にはあまり症状が現れませんが、毛が抜けたり表皮が剥がれることもあります。
人間の症状も同様で、かゆみのある水疱ができることもあります。
■原虫が原因となるもの
トキソプラズマ症
感染している猫のフンに原虫が出て、それが人間の体内に入ることで感染します。
子猫が感染すると肺炎や脳炎などの症状が現れることがあります。
人間では、抗体を持たない妊婦が感染した場合は、流産や胎児の先天性障害の原因となることがあります。
猫だけでなく、豚の生肉からも感染することがあります。
■寄生虫が原因となるもの
回虫幼虫移行症
犬や猫のフンの中に回虫の卵が排泄され、それが人間の体内に入って孵化することで感染します。
子猫が感染すると下痢や嘔吐の症状が現れますが、成猫では全く症状が現れません。
人間の場合は、肝臓、脳、目に障害を起こすことがあります。
疥癬(かいせん)
ヒゼンダニ(かいせん虫)に接触して感染します。
動物も人間も強いかゆみを伴う湿疹ができ、脱毛したりかさぶたができたりします。
上記のほかに、今特に話題になっている「マダニ」があります。ウイルスを持っているマダニに猫が咬まれたことで猫が発症し、猫の体液にウイルスが出て、それが人間に感染すると言われています。しかしまだ、はっきりとした感染経路はわかっていません。
—猫はどうして、これらの病気に感染するのですか?
猫自身も、感染しているほかの動物と接触して感染します。疥癬などは、母猫やペットショップなど子猫のときの環境で感染することもあります。回虫も、子猫なら持っていておかしくない病気です。
—人間から猫に病気がうつることはありますか?
全く無いわけではありませんが、基本的にウイルスは種を超えて感染することがほとんど無いので、心配するようなことはありません。基本的に保健衛生は人間の健康を守るためにあるので、人から猫への感染についてはあまり重要視されていませんね。
—これらの病気の感染を防ぐためには、どうすればよいでしょうか?
これらの感染症には、猫自身には症状が現れないものがたくさんあります。飼い主さんは、動物の排泄物を触ったら石鹸で手を洗い、キスなどの濃厚接触を避けることにいつも気をつけていただきたいですね。
ダニや疥癬などは猫にも症状が現れます。いつもより毛をかきむしっていたり、かゆそうに体をこすりつけるなどの症状に気がついたら、すぐに獣医師に相談しましょう。
またトキソプラズマ症などは、外猫が野良ネズミなどを狩ることで感染することがありますので、室内で飼育した方が良いですね。野良猫を保護して飼うような場合は、最初にしっかりと検査をしておきましょう。
—日頃からできる予防法はありますか?
第一は、猫も人間も健康状態を良くしておくことです。栄養状態が悪かったり、他の疾患にかかっていると、免疫機構に影響が出て感染リスクが高まることがあります。
また、定期的にブラッシングをしていれば、皮膚に症状が現れる疾患を見つけやすくなります。ノミやダニは予防薬がありますので、獣医師と相談して使用してください。
猫から伝染する病気として、種類は様々ありますが、普通に飼い猫と生活している限りではそこまで神経質にならなくてもいいのかな、とは思います。ただ、野良猫に接触するときや、飼い猫でも外出を頻繁にするタイプの場合は注意しましょう。そして、猫と自分自身の健康を守るためにも、排泄物を触ったら石鹸で手を洗う、濃厚接触を避けることを習慣にしてくださいね。