2018/02/01
遊んでいるうちにおもちゃのカケラを飲み込んでしまったり、人間の食べ物を食べてしまったり……。ちょっとしたイタズラによる誤飲・誤食が、猫の体を大きく傷つけ、最悪の場合は死に至ることもあります。猫が誤飲・誤食をした場合の対処法について、獣医師の三宅先生にうかがいました。
—以前、犬の誤飲・誤食についてお話をうかがいましたが、犬と比較して猫の誤飲・誤食事故は多いのでしょうか?
犬よりは猫の方が、誤飲・誤食事故は少ない傾向ですね。犬は人間と同じ雑食ですが、猫は完全肉食のため、人が食べる炭水化物の甘味や、強い匂いのする刺激性の薬品に興味を持つことは、あまりありません。
ただ、遊んでいるうちに、うっかり何かを飲み込んでしまうことはあります。
犬の誤飲については「犬の誤飲・誤食を防ぐために|安全に応急処置できる対処法一覧付き」もあわせてご覧ください。
また、「異嗜(いし)」といって、砂利など食べ物ではないものを食べたがる、変わった嗜好を持つ猫もいます。中には、理由はわかりませんが、「胃がムカムカしているときにビニールを舐めたがる」という猫もいますね。そのような嗜好を持つ場合は、ものを出しっぱなしにしないなどの注意が必要です。
—飲み込んだものが、たとえばビーズや砂粒ほどの小さなものであれば、様子を見ても良いでしょうか?
そうですね。おそらくごく小さなものであれば、排泄されるまで様子を見ても問題ないと思いますが、一概に「何センチ以下なら安心」とは言えません。梅干しの種くらいの大きさでも、腸で詰まって閉塞してしまうことがあるので、判断がつかないときはすぐに動物病院を受診してください。
たとえばティッシュでは、小さな破片なら大丈夫でも、薄い1枚だったとしても胃の中で塊になってしまい、腸が閉塞を起こすこともあります。
—誤飲をした場合、特に危険なもの、注意が必要なものはありますか?
紐や糸など、長いものです。子猫のイメージとして毛糸玉で遊んでいる姿があるかと思いますが、紐状の長いものは特に危険です。細い糸のようなものは、腸の粘膜が吸収しようとして張り付いてしまい、腸が引きつってしまいます。紐の誤飲で亡くなるケースも多いので、十分注意しましょう。
【事例1】カーテンの誤食 ミックス(1歳)内視鏡で確認後、腸切開手術 |
|
診察料 | ¥1,204 |
---|---|
入院費4日間 | ¥16,000 |
血液検査 | ¥4,306 |
X線検査 | ¥12,963 |
超音波検査 | ¥2,000 |
点滴・注射 | ¥29,917 |
麻酔 | ¥12,000 |
内視鏡 | ¥9,259 |
手術 | ¥55,000 |
くすり | ¥704 |
治療費合計 | ¥143,353 (税別) |
—糸や紐の誤飲・誤食を無くすためには、どうすれば良いでしょうか?
まずは、それらに興味を持たせないようにすることです。子猫の時から、毛糸や紐をおもちゃとして与えるのはやめましょう。紐付きのおもちゃは、紐が切れかけていないかをよく確認してください。
また、飼い主さんのスカートや、カーテンの裾からほつれた糸が出ていて、それで遊んでしまうこともあります。ほつれた糸は見つけたら、切っておくなどの対処が必要ですね。
—胃の中に入ったものが腸に移動するまで、どの程度の時間がかかるのでしょうか?
早ければ3~4時間で腸に移動します。異物が胃の中にあるのであれば、内視鏡で取り出せる場合もありますが、腸に行ってしまうと、腸を切開する必要があります。
飼い主さんの中には「症状が出るまで様子を見よう」という方もいらっしゃいますが、腸はとてもデリケートな組織で、異物による通過障害などで壊死を起こすことがあります。もし腸が壊死してしまった場合は、腸切除を行いますので、大手術となってしまいます。
また中毒性のものであれば、その時は大丈夫でも、数日後に神経症状や臓器へのダメージが出る場合もあります。異物を飲み込んだら、すぐに受診して処置を受けてください。
【事例2】針の誤飲 ペルシャ(4歳) 内視鏡にて摘出 |
|
診察料 | ¥9,000 |
---|---|
血液検査 | ¥14,300 |
X線検査 | ¥7,000 |
点滴・注射 | ¥4,400 |
麻酔 | ¥19,000 |
内視鏡 | ¥15,000 |
治療費合計 | ¥68,700 (税別) |
—たとえば、イタズラをして部屋の中がグチャグチャになっていて、「もしかしたら何かわからないけれど食べてしまったかもしれない」というようなケースは、どうすれば良いでしょうか?
部屋の状況を見て、何かを飲み込んだ可能性があるなら、受診しましょう。金属性のものであればレントゲンに写りますし、造影剤を飲んで腸に閉塞がないかを調べることもできます。
—何かを飲み込んで喉につまらせていたら、背中を叩いて吐き出させることもできますか?
口を開けさせて、指で取り出せるのであればそうした方が良いですが、背中を叩いて吐き出させることは、ご家庭では難しいと思いますよ。
—そのほかに、日常生活の中で注意すべきものはありますか?
植物性のものです。猫は肉食なので、植物性のものを消化したり、肝臓で解毒する機能を持っていないので、植物性のものは与えないようにしましょう。
室内の観葉植物や切り花を誤飲する場合もあるので、猫を飼っているお部屋にはなるべく植物を置かない方が良いですね。
—すべての植物が危険なのでしょうか?猫に対して毒性がない植物もありますか?
海外には、猫に安全な植物リストのようなものもありますが、それはあくまで「現段階で毒性が報告されていない」だけで、本当に安全かどうかはわかりませんよね。
植物を誤食することで、肝臓障害や腎不全を起こすケースが多くあります。中でもユリの毒性は広く知られていますが、ユリを誤食して数日で亡くなってしまうケースもあります。
基本的に「猫に植物は危険」だという認識を持っておいた方が良いでしょう。
また、植物の成分を濃縮した「アロマオイル」も、猫にとっては危険です。
アロマオイルそのものはもちろんですが、アロマオイルを焚いた空間に長時間いるだけでも、何らかの症状が出る場合もあります。
【事例3】ユリの葉の誤食 ミックス(13歳) 入院治療(重症例では治療をずっと続けないといけないケースもあります。) |
|
診察料 | ¥2,000 |
---|---|
入院費2日間 | ¥11,500 |
検査料 | ¥18,500 |
点滴・注射 | ¥8,200 |
くすり | ¥1,040 |
治療費合計 | ¥41,240 (税別) |
—アロマオイルのほか、洗剤や薬など液体や粉状のものを飲んでしまった場合は、どうすれば良いでしょうか?
刺激や匂いの強いものは、うっかり舐めても大量に飲み込むことはあまりありません。舐めてしまった場合は、口の中に爛れがないかチェックしましょう。
飲み込んでしまった場合は、動物病院で胃を洗浄したり、特定の毒物に対しては「拮抗薬」を投与したり、その他点滴などで排出を促すこともあります。肝臓障害や腎不全を起こしてしまったら、入院して治療が必要です。
猫の誤飲・誤食は「これくらいなら大丈夫」と安易に判断することはできません。
毒性に対する個体差もありますので、すぐに獣医師の判断を仰ぎ、動物病院を受診しましょう。