2020/06/25
犬フィラリア症は、寄生虫であるフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が蚊を媒介にして、犬の体内に入り、心臓の機能障害を引き起こす感染症です。かつて犬の死因として多かった病気です。
あの“忠犬ハチ公”の死因のひとつが犬フィラリア症だったとも言われています。犬フィラリア症に感染する原因、感染を予防する方法や治療法について、獣医師の三宅先生にうかがいました。
—犬フィラリア症とは、どのような病気でしょうか?
フィラリアという寄生虫が犬の体内に寄生することで、心臓に機能障害が起こる病気です。
フィラリアの成虫は、心臓の右心室にある肺動脈に寄生します。右心室は肺に血液を送る役割をしているため、虫がいると十分な血液を流すことができません。また、右心室に戻ってくる血液も十分に戻ってこれなくなります。その結果、散歩の途中でぐったりしたり、ハァハァと息切れをするようになったり、咳が出たり、腹水が溜まるなどの症状が出ます。
犬の心臓病については「愛犬が心臓病と診断されたら~心臓病の治療や生活とは~」もあわせてご覧ください。
—フィラリアは、どうやって犬の体内に寄生するのでしょうか?
フィラリアを媒介するのは、蚊です。蚊がフィラリアに感染した犬の血液を吸血することで、蚊の体内には、フィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)が入ります。[図中1~3]
その後、その蚊が別の犬を刺します。[図中4] そうすると、その犬の体内にミクロフィラリアが入り、フィラリアに感染します。[図中5]
このように、フィラリアに感染している犬から感染していない犬へ、蚊が媒介となって広がっていくのです。
犬の体内に入ったミクロフィラリアは、犬の血管の中で成長し、やがて成虫になって心臓付近に寄生します。
—フィラリアに感染しやすい犬種や年齢などはありますか?
特にありません。長毛でも短毛でも、若くてもシニアでも、フィラリアには感染します。
感染率に違いがあるとすれば、地域性ですね。川沿いなど蚊の多い環境であれば、それだけ感染リスクが高くなります。
また草むらの中を好んで散歩したり、室内ではなく庭などで外飼いしているなど、蚊に刺されやすい環境で生活していれば、フィラリアの感染リスクも高まります。
—フィラリアに感染している蚊は、犬以外を刺して感染させることもありますか?
フィラリアにとって、寄生しやすい生態を持っているのが犬なのです。猫もフィラリアに感染することはありますが、猫の体内ではあまり幼虫が育たないようです。
もちろん、私達人間も刺されることもありますが、人間には感染しません。ほとんどが犬の病気だと考えて良いと思います。
—フィラリアに感染している蚊に刺された犬は、すべてフィラリア症になってしまうのですか?
それは、ケースによります。あまり虫が成長せずほとんど影響がない場合もありますし、心臓が機能障害を起こすほどに成虫が増えてしまう場合もあります。
ただ、フィラリア症はほとんど薬で予防できますので、きちんと対策をしておけば、あまり心配する必要はありません。
—犬フィラリア症の予防は、どのようにするのでしょうか?
飲み薬・滴下剤・注射の3種類あります。いずれもフィラリアに感染しないための薬ではなく、フィラリアに感染しても幼虫をすぐに殺してくれる「駆虫薬」になります。
飲み薬は、錠剤の他にもおやつのようなチュアブルタイプがあり、月に1回飲ませます。
滴下剤は、首の下に薬を垂らすタイプで、フィラリアだけでなくノミ・ダニ予防の薬とあわせたものが多いですね。こちらも、月に1回継続して与えます。
注射は、1回打つと半年~1年間は効果があります。
いずれの場合も薬の量は、犬の体重にあわせて処方されます。どれが特に効果があるというものでもないので、薬を飲むのが苦手な犬は注射を選ぶなど、飼い犬の性質や飼い主さんの都合にあわせて選んでください。
—予防薬は、ペットショップなどで購入できますか?
ペットショップでは販売されていません。飲み薬や滴下剤を含め、フィラリア予防薬はすべて獣医師の指示でのみ処方されます。インターネットなどで販売されているケースもありますが、きちんとかかりつけ医に処方してもらったものを購入するようにしましょう。
—予防薬は、1年中ずっと飲み続けるのでしょうか?
蚊が飛び始めてから、いなくなった1ヵ月後までの間、継続して飲ませます。蚊は平均気温が14度以上になると飛び始めますので、地域にもよりますが、だいたい3~4月から11月~12月くらいまでの8ヵ月間程度、継続する必要があります。
—もしフィラリアに感染してしまったら、どのような治療を行うのでしょうか?
まずは血液検査をして、血中にミクロフィラリアがいるかどうか検査します。あわせて超音波などで、心臓付近に寄生している成虫の数を調べます。成虫の数が少量であれば、成虫用の駆虫薬を飲ませる内科的治療を行います。
また、駆虫薬は幼虫用のものだけを飲んで幼虫を駆除しながら、成虫の寿命が尽きるのを待つ方法もあります。
もし大量に成虫がいる場合は、外科手術で虫を取り出す「釣り出し法」を行います。
—すべてのフィラリアが体内からいなくなれば、病気が治るのでしょうか?
それは、場合によります。虫の量が少なく心臓に機能障害を起こしていない場合もあれば、障害が残ることもあります。その場合は、虫がいなくなっても心臓病の治療を続ける必要があります。
かつてフィラリアの予防が一般的でなく、また外飼いの犬が多かった時代は、フィラリア症は犬の死因として上位にあげられるものでした。しかし予防についての認識が広がり、飼い主さんが積極的に予防を行った結果、フィラリアが原因で死亡する犬は減少しました。
しかし、フィラリア症が根絶したわけではありません。予防をしていない外飼いの犬が増えれば、フィラリアで亡くなる犬は増えます。
フィラリアは「十分に予防をすれば心配のない病気」です。飼い主さんは責任を持って、愛犬のためにきちんと予防をしてください。