2021/11/16
猫がかかりやすい病気の上位に入ることが多い「膀胱炎」。
人間でもよく聞く病気ですが、猫の場合はどのような点に注意すべきか、三宅先生に詳しくうかがいました。
――猫はよく膀胱炎にかかると聞きますが、それはどうしてなのでしょうか?
元々砂漠に生息していた猫は、水を飲む量が少なくても生きていけるように、おしっこを濃縮して残った水分を体内で再利用するなど、自分の体内にある水分をとても大切に使います。猫に泌尿器系の病気が多いのは、身体的本能からきているようです。
――膀胱炎にかかりやすい猫の特徴を教えてください。
猫の膀胱炎の場合、オスは特に注意が必要です。
――オスですか?人間の場合は女性に多い病気、という印象だったので意外でした。
猫のオスはペニスがボールペンの先端程度の太さで、尿道がものすごく細いのです。
そのため、膀胱炎により、尿中に膿や血餅(けっぺい)ができることがあり、それらが尿道に詰まるおそれがメスよりも高くなります。
――だから、オスのほうがより注意が必要なんですね。
また、結晶ができるタイプの膀胱炎では結晶が尿道の粘膜を傷つけることにより、尿道が腫れてしまい尿が出にくくなることもあります。違和感からペニスを舐めることも多く、その刺激でペニスの先端も腫れてしまい、さらに尿は出にくくなります。
膀胱は尿ではちきれそうなのに排尿できない状態になると、急性腎不全を起こし、尿中の毒素が身体中にまわってしまいます。
「おしっこの出がちょっと悪いのかな」というくらいの気持ちで受診をしたところ、完全に尿道閉塞を起こしていて急性腎不全のため点滴入院となることは多く、びっくりされる飼い主さまも少なくありません。
――入院が必要なほど重症だとは思わなかったのでしょうね。「おしっこが出ないだけなのに」と思っていらっしゃる飼い主さまが多いのかもしれません。
猫は泌尿器系の病気が多いことは知られていますが、オスは特に注意が必要というレベルまでなかなか浸透していないようですね。
――たしかにそうですね。まさに私自身も知りませんでした…。その他に注意してあげることはありますか?
やはり日頃のおしっこチェックですね。回数だけでなく、1回の量や排尿姿勢を取ってからスムースにおしっこが出ているかなど見てあげてください。
――なるほど。回数や頻度だけでなく、スムースにおしっこが出ているか、という点も大事なんですね。
また、寒い時期と太っている猫も注意が必要です。
猫は寒くなると水を飲む量が減りますが、太っているとあまり動かないので、水を飲まなかったり、おしっこが面倒で我慢するので尿が濃くなり結石ができやすくなります。11月の寒い頃になると膀胱炎にかかった太った猫が増えるようです。
――先生のところには、膀胱炎の相談はありますか?
「おしっこが出ないけど、病院に行くほどですか?」という感じの相談が多いですね。
でも、「おしっこが出ない」という時点で、すぐに病院に行かなければならない場合が多いので、どれくらいおしっこが出ていないか聞いて、かかりつけの病院を受診するようにお伝えします。
――「おしっこ出てないな」と気付いたら、すぐに病院へ連れて行くようにしたほうがよさそうですね。猫の膀胱炎で通院の場合、どのくらいの期間がかかりますか?
軽度の場合は1週間分の薬を処方され、1週間後に再診という程度で通院回数も少なく済みます。
膀胱炎の際は、たくさん水を飲んでどんどん膀胱内を綺麗にすることが大切ですが、猫に積極的に飲水させるのは困難なため、皮下補液と言って、皮下に点滴液を貯め水分補給する方法も多くとられます。
皮下補液の通院で1~2週間かかることもあります。
――治療法のひとつとして、処方食という手段もあると思いますが、詳しく教えてください。
処方食は結晶が原因の膀胱炎と診断された時に出される、ミネラル成分やイオンバランスを特別に調整した療法食です。
処方食はおしっこのphを整え、おしっこの中の結晶を溶かすことが期待できますが、処方食をやめると再発してしまう場合もあります
――ある程度、継続することが必要なんですね。
はい。ただ、例えば猫によくできやすいストラバイトという結晶は尿がアルカリ性に傾くことによって起こるため、それを改善させる処方食を与えますが、知らぬ間に今度は酸性に傾きすぎてしまうこともあります。
酸性でできる結晶もあるので、動物病院で定期的におしっこの状態を診ながらphに合わせて処方食を切り替えていくことが大切です。処方食はずっと続く場合もありますが、通院や入院に比べると比較的に費用を抑えることもできるのです。
――ひとくちに膀胱炎と言っても、原因や症状によって治療方法は様々なんですね。膀胱炎の場合、水分補給が重要になりますが、食事から摂取してもいいのでしょうか?
そうですね、ウェットフードの方がドライフードよりも1日の水分摂取量が増えますね。最近は手作り食を与えている飼い主さまもいるようですが、それはあまりおすすめしません。
――手作り食というと、なんとなく身体に良さそうな気もしてしまいますが…。
手作り食だとかえって栄養が偏ってしまう危険があり、栄養が偏ってしまうと、結石ができる可能性が高くなってしまいます。飼い主さまが栄養学に詳しいのであればいいのですが、それ以外の方は市販のペットフードで十分だと思いますよ。
――膀胱炎は定期健診などで見つかるのでしょうか?
定期的に尿検査をしておくことによって、症状が出るまえに気が付けることもあります。
また、排尿時の様子がおかしい、おしっこがでないなど、飼い主さまが異変に気づきやすい病気でもあります。
一方で「おしっこが出にくいくらい大丈夫だろう」と様子を見てしまう方もいるため、急性腎不全を起こし、ぐったりしてから慌てて病院にかけこまれるケースもあります。
――そんな重症になってしまうこともあるんですね。
明らかに元気がない、という時にはすでにかなり進行している可能性が高いです。ちょっと様子がおかしい気がするというくらいで受診されるのがちょうど良いと思います。
特に猫は病気を隠してしまうので、日頃から排尿時のチェックをおこなったり、定期的に健康診断をしていただくことが重要だと思います。
早期に発見できれば猫にも飼い主さまにも負担が少なく治すことができます。
●症状
主な症状として、まず頻尿になります。残尿感があるので何度もトイレに行くけど尿の量が少ない、排尿姿勢を取ってからおしっこが出るまで時間がかかる場合は膀胱炎の可能性が高いです。また、排尿痛があるためおしっこをするときに痛みを感じて鳴く場合もあります。にごった尿をしたり、血尿のため赤い尿をしたりすることもあります。
●原因
細菌、ストレス、結晶などがあります。細菌感染による膀胱炎ですが、通常は感染が起こらないように働く身体のバリア機能がなんらかの原因で衰えてしまっていることが関与していると考えられます。結晶は、結石までには至らないきれいなキラキラとした砂粒状の物質で、リンやマグネシウム、カルシウムといったミネラルがバランスよく適切に摂取できていない場合や、食事の影響で尿が酸性やアルカリ性に傾きすぎていると結晶が形成されやすくなります。
●治療方法
いつでも清潔な水が飲めるような環境を整え、水分をたくさん摂取して新鮮なおしっこをどんどん作らせることが基本的な治療法です。細菌性の場合は抗生剤、炎症が強い場合は消炎剤を処方します。結晶の場合は、おしっこのphをコントロールする薬や処方食が出されます。
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