2018/11/06
犬に多いと言われる「子宮蓄膿症」。場合によっては死に至ることもある恐ろしい病気です。なぜ犬が子宮蓄膿症になりやすいのか。感染原因や症状、治療法、そして予防法について、獣医師の三宅先生にお話をうかがいました。
—子宮蓄膿症とはどのような病気なのでしょうか?
メスの子宮内膜が腫れ、そこに細菌感染を起こし、子宮内に膿がたまる病気です。他の動物でもみられますが、特に犬に多くみられます。
—なぜ犬は子宮蓄膿症にかかりやすいのでしょうか?
動物は発情期を迎えると、妊娠のためのホルモンを分泌します。その一つに黄体ホルモンというものがあり、これは、排卵後に分泌されるホルモンです。黄体ホルモンは子宮粘膜を肥厚させ、子宮の中に“受精卵が着床しやすいふかふかのベッド”を作ります。
人間では、妊娠が成立しなければ黄体ホルモンの分泌は終了し、ふかふかのベッドは月経という形で排出されます。しかし、犬は、妊娠が成立しなくても、約2ヵ月間の間、黄体ホルモンが分泌され続け、子宮内膜は肥厚したままになります。本来は受精卵を着床させるために肥厚するわけですが、肥厚した子宮内膜は細菌感染も起こりやすく、その結果子宮蓄膿症を発症しやすくなるのです。
犬が子宮蓄膿症にかかりやすいというのは、犬の体の構造上、仕方がないことだと言えます。
ちなみに猫は基本的に交尾をしないと排卵が起こらない「交尾排卵動物」であり、交尾をするとかなりの高確率で妊娠するため、妊娠していないのに黄体ホルモンが分泌されるという状況になることがほとんどありません。そのため、猫では子宮蓄膿症があまりみられないのです。
犬の妊娠・出産については、「愛犬が妊娠・出産! 飼い主さんの準備と安産のポイントを獣医師が解説」もあわせてご覧ください。
—子宮蓄膿症にかかりやすいのは、どのような犬でしょうか?
若い犬がかかることもありますが、リスクが高いのは長い間出産していない、もしくは一度も出産したことがない高齢犬です。
黄体ホルモンの影響を受けて子宮が肥厚する、という状態を何度も繰り返すと感染しやすくなるため、発情期をたくさん経験し、高齢になるほど発症リスクが高くなります。
—子宮蓄膿症になると、どのような症状が出るのでしょうか?
ぐったりして吐いたり、食欲がなくなります。また水をたくさん飲むのでおしっこの量が増えます。膿がたまると腹部が腫れますが、かなりの貯留がないと見た目で分かるということはないでしょう。
子宮蓄膿症には「開放性」と「閉鎖性」の2種類があり、開放性の場合は陰部から膿が出ることもあります。
—子宮蓄膿症は、どのような治療をするのでしょうか?
動物病院で子宮蓄膿症だと診断された場合、緊急管理で即入院になることがほとんどです。
全身状態に問題がなければすぐに手術をして、子宮と卵巣を摘出します。
全身状態があまりにも悪い場合は、抗生剤投与と輸液療法により体力の回復を待ってから手術を行うこともあります。
高齢で手術に耐えられない、どうしても子どもを産ませたいので子宮を取りたくない、などの場合は、開放性であれば子宮を収縮させ黄体期(黄体ホルモンが分泌されている期間)を終わらせる薬を使用することで膿を排出させるという内科的な治療をすることもあります。しかし、治療に時間がかかったり、完全に治療することができなかったり、次の発情の際にまた子宮蓄膿症を起こしたりすることも多いです。
閉鎖性の場合は膿を排出させることはできないため、内科的な治療は行えません。
—手術をして子宮と卵巣を摘出したら、健康な状態に戻れますか?
感染する細菌によっては、子宮内で毒素を出し血管に血栓を作ってしまったり、腎不全を起こしたりすることもあります。その結果、手術は成功してもその後多臓器不全を起こして亡くなる場合もあります。
全身状態が悪くなく、血栓もできていないのであれば、数日間の入院で回復します。
—子宮蓄膿症には、どの程度の割合で感染するのでしょうか?
文献によっても異なりますが、4歳以上のメス犬で15%程度発症し、9歳以上になるとさらに発症率が高くなると言われています。
また別の文献で4頭に1頭と言われることもあれば、50%程度と言われることもあり断定はできませんが、かなり高い発症率であることは確かです。
—子宮蓄膿症を予防するためには、どうすれば良いでしょうか?
若いうちに避妊手術をすることです。「室内飼育で妊娠する可能性がないから」と避妊手術を受けさせない飼い主さんもいらっしゃいますが、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍の予防のためにも、避妊手術をおすすめしています。
子宮蓄膿症は、避妊手術で予防できる病気です。妊娠させる予定がないのであれば、手術を検討してください。