2019/09/03
食欲が旺盛なのに太らない、目がギラギラして行動的になった…愛猫の、表面上は元気なようにも思える状態ですが、もしかしたら「甲状腺機能亢進症」かもしれません。猫に多いと言われる甲状腺機能亢進症は、どのような病気なのでしょうか。獣医師の三宅先生にうかがいました。
—甲状腺機能亢進症とはどのような病気ですか?
甲状腺は、喉の気管あたりにある小さな臓器で、新陳代謝を促進する甲状腺ホルモンを分泌しています。
その甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気が甲状腺機能亢進症です。
—甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、どのような状態になるのでしょうか?
新陳代謝が活発になるので、食べても太らず、体重が減少していきます。
エネルギーが過剰に消費されてしまうため毛艶が悪くなることもありますし、目のギラつきや、下痢・嘔吐などの消化器症状を起こすこともあります。
また高血圧になったり脈が乱れたりすることで、心肥大や呼吸困難を引き起こすこともあります。
しかし、猫自身は食欲旺盛で活発に動き回るため、一見して発症がわかりにくい病気です。
飼い主さんの中には、病気だと気づかずに「高齢の割には元気」だと捉えている方が多くいらっしゃいます。
—甲状腺機能亢進症は、猫に多い病気なのでしょうか?
犬と比べると猫に多い病気です。犬の場合は、甲状腺機能低下症は見られますが、甲状腺機能亢進症はあまり見られません。
猫の場合は、高齢猫(7歳以上)であれば特に珍しい病気ではありません。
—では飼い主さんが甲状腺機能亢進症だと気づくのは、どのようなときでしょうか?
健康診断で見つかることが多いです。高齢猫の健康診断項目に、甲状腺機能亢進症の検査を入れている動物病院は多くあります。
—甲状腺機能亢進症になる原因は何でしょうか?
甲状腺が過形成を起こす要因として考えられるものは、地理的要因、遺伝的要因のほか、食べ物や建築物の化学物質などいくつかの説はありますが、断定できるものはありません。
—甲状腺機能亢進症は、どのような治療を行うのでしょうか?
甲状腺ホルモンの分泌をコントロールするため、内服薬を使用します。甲状腺機能亢進症は薬によって完治することはなく、一度発症したら生涯に渡って付き合っていく病気です。
また、療法食を処方されることもあります。場合によっては、療法食だけでホルモン分泌をコントロールできることもあります。
内服薬でのコントロールがうまくいかない場合は、甲状腺を切除する外科的治療を行う場合もあります。ただし、そうすると甲状腺ホルモンが分泌されなくなってしまうので、内服薬で甲状腺ホルモンを補填する必要があります。
多くの場合は薬でコントロールできるので、この病気が原因で死に至るようなことはありません。
—治療にあたっての注意はありますか?
高齢猫の多くは、慢性腎臓病を患っています。慢性腎臓病になると腎臓への血流が悪くなるのですが、甲状腺機能亢進症が原因で血圧が高くなっているために腎臓への血流が確保され、腎臓病の症状が抑えられている、ということが多くあります。
この場合は、甲状腺機能亢進症の治療をすると慢性腎臓病が悪化する可能性もあるため、治療のタイミングや程度については、獣医師と相談した上で進めることになります。
—猫が甲状腺機能亢進症と診断されたら、どうすれば良いでしょうか?
特に日常生活を変える必要はありません。療法食を処方されたら、それだけを食べさせるようにしてください。
—甲状腺機能亢進症の予防方法はありますか?
残念ながらありません。予防は難しいため、定期的に血液検査を含む健康診断を行い、早期発見につなげましょう。
—健康診断は、どれくらいの頻度で行うべきでしょうか?
若齢の場合は1年に1回でも良いと思いますが、7歳以上の高齢猫になったら半年に1回程度は受けることが望ましいです。
猫は1年で4歳分年を取りますので、人間に換算すると2年に1回程度の受診ということになります。
甲状腺機能亢進症は、食欲が旺盛になり行動も活発になるため、飼い主さんが発症に気づきにくい病気です。
定期的な血液検査を行って、早期発見・早期治療に努めましょう。