2020/01/21
愛犬の尿の出が悪い、すぐにトイレに行きたがるなどの症状が出たら、それは膀胱炎のサインかもしれません。犬の膀胱炎の原因や治療方法、予防方法、日頃の注意点などを獣医師の三宅先生にうかがいました。
—膀胱炎は、どのような病気でしょうか?
膀胱の粘膜に炎症が起こる病気です。炎症の原因として主なものは、細菌感染や膀胱結石(結晶)によるものです。そのほかには、外傷や膀胱腫瘍などが原因として挙げられます。
—膀胱炎になると、どのような症状が出るのでしょうか?
排尿時の痛みにより鳴く、残尿感から頻繁にトイレに行く、排尿姿勢を取ってから尿が出るまで時間がかかる、血尿が出るなどの症状が現れます。
—猫の方が、膀胱炎をはじめ排尿トラブルが多いという印象ですが、犬にもよくある病気なのでしょうか?
猫は確かに泌尿器系のトラブルが多いうえ、雄の尿管が非常に細く、結石になる前の結晶の段階でも尿管が詰まりやすいために膀胱炎が重症化する傾向があります。
犬の場合は、猫ほど急激に重症化することは多くはありませんが、膀胱炎自体は決して珍しい病気ではありません。
猫の排尿トラブルについては、「おしっこがいつもと違う?猫の膀胱炎はどうやって気付けばいいの?症状と対策方法」、「獣医さんに聞く!猫の「尿路結石」種類や原因、治療法など」もあわせてご覧ください。
—猫の場合は寒い季節に膀胱炎が多く発症すると聞きますが、犬でもそうでしょうか?
猫は、寒さでトイレに行く回数が減り、かつ日頃から飲水量が少ないことが原因で膀胱炎になることもあります。
しかし犬は、「寒いから動かない」という動物ではありません。冬でも散歩に行きますし、お水も自然に飲む動物なので、季節性については猫ほどには関連がないでしょう。
—では、季節に関係なく注意が必要ということですね。
細菌感染が原因の一つということですが、どのような経路で感染するのでしょうか。
外部からの細菌が尿道から体内に入るのですが、通常は防御反応が働いているので侵入できません。しかし、何らかの原因で細菌を防ぎきれない場合に、侵入した細菌が増殖して膀胱炎を起こします。
またメスの場合は、肛門と尿道口が近いので、便を介して腸の細菌が尿道に侵入してしまうこともあります。
—それは、メスのほうが膀胱炎になりやすいということなのでしょうか?
そうですね。特に下痢などの場合は尿道口が汚れやすくなるため、感染リスクが高くなります。状況に応じて、排便後は清潔に拭き取るなどの対応が必要になることもあります。
—長毛種や大型犬が膀胱炎になりやすい、などの傾向はありますか?
それは特にありませんが、メスの尿道口が汚れやすいという意味では、長毛種は注意をした方がいいでしょう。
また、膀胱炎の原因の一つとして結石がありますが、遺伝的に尿結石ができやすい犬種というのはあります。
—それは、どういった犬種でしょうか?
結石にも様々な種類がありますが、一例を挙げるとミニチュア・シュナウザーやウェルシュ・コーギー、ダルメシアンなどです。
—愛犬がどのような症状を見せたら受診すべきでしょうか?
膀胱炎は様子をみていて治る、という病気ではありませんので、「普段と比べて排尿回数が多いかな?」と思うくらいでも早めに受診をしていただきたいですね。
—膀胱炎が疑われるときは、どのような検査をするのでしょうか?
尿検査とエコー検査をして、膀胱炎の原因が細菌感染なのか、外傷によるものなのか、それとも結石や膀胱腫瘍など他の病気に起因するものなのかを調べます。
—膀胱炎と似た症状が出る病気もあるのでしょうか?
オスの場合は、前立腺炎が膀胱炎と似た症状が出ますし、前立腺炎が膀胱炎の原因になることもあります。
避妊手術をしていないメスの場合は、子宮や膣の炎症による出血が、血尿だと間違われることもあります。
—検査によって膀胱炎だと診断されたら、どのような治療を行うのでしょうか?
原因が細菌感染の場合は、抗生剤の内服が中心となります。
結石の場合は療法食を処方されることが多いでしょう。療法食で溶けないタイプの結石の場合は、外科的に摘出をするケースもあります。
また、膀胱洗浄などを行うこともあります。
犬は自発的に水を飲む動物ですが、それ以上に水分を取って排尿を促したい場合は通院して皮下補液(皮膚の下に行う点滴)をすることもあります。
—薬や療法食をきちんととっていれば、すぐに治りますか?
通常は治りますが、中には難治性のものもあり、長期間に渡る治療が必要になることもあります。
—「膀胱炎は癖になる」と聞きますが、それはなぜでしょうか?
症状が良くなったからと処方された飲み薬や療法食を途中でやめてしまうと、治療が中途半端になり、何度も繰り返し炎症が起こることもあります。
出された薬は最後まできちんと服用し、療法食もしっかり食べてください。
—膀胱炎を予防する方法はありますか?
犬に限らずですが、太っていると動くのがおっくうになってトイレに行きたがらなくなり、膀胱炎リスクが高くなります。愛犬の肥満には、十分気をつけてください。
犬の肥満については、「犬の肥満原因とダイエット法について、獣医さんに聞きました」もあわせてご覧ください。
また先ほどもお話ししたように、メスが下痢をしている場合は清潔に拭いてあげることも重要です。
そして排尿がしっかりできているか、日頃から観察してください。特にオスは尿道が細いので、結石ができると尿道が詰まりやすくなります。
—結石ができやすい体質の犬種は、特に注意が必要でしょうか?
そうですね。定期的に尿検査をして結晶成分ができていないかを調べ、できている場合は療法食を食べさせるなどの対応が必要になります。
—便を拭く場合は、アルコール消毒などが必要ですか?
便が尿道口まで垂れてしまわなければ大丈夫なので、そこまで必要ではありません。
—散歩のときにしか排尿しない犬もいますが、膀胱炎を防ぐためには室内でも排尿できるようにしつけたほうが良いのでしょうか?
1日2回、必ず散歩に行けるのであれば問題ありませんが、飼い主さんの事情でそれができないときや、また老犬になって動けなくなったときのことを考えると、ペットシーツでも排泄できるようにしつけたほうが、長い目で見て犬のためになると思います。
犬の膀胱炎は、珍しい病気ではありません。日頃から愛犬の排尿の様子をチェックし、少しでも変わったことがあったら、すぐに受診しましょう。