2020/11/30

【獣医師監修】犬のインフルエンザ|感染経路や症状、予防対策を解説

2020/11/30

【獣医師監修】犬のインフルエンザ|感染経路や症状、予防対策を解説

 昨今、ウイルスが原因となる病気が猛威を振るい、世界中で問題となっています。目に見えず気がつかないうちに感染してしまうウイルスですが、冬はさらに感染力が増していきます。真冬になると人ではインフルエンザがピークを迎えますが、犬のインフルエンザはどうなのでしょうか。犬インフルエンザの発生状況、症状や感染経路、またインフルエンザ類似疾患への対策についてご説明します。

犬にもインフルエンザはあるのか

 日本国内での犬インフルエンザの発症報告は現在まだありません。ですが、海外では多数報告があり、他の動物から犬への感染や、変異を繰り返し感染が拡大しているなどの報告があります。目には見えないウイルスという脅威だからこそ、症状や予防対策を知ることが大切です。

インフルエンザウイルスの種類

 人のインフルエンザでは、病原体であるインフルエンザウイルスの構造の違いによって、いくつか型があるのと同様に犬のインフルエンザにも型があり、その分類は多岐にわたります。犬インフルエンザを発症した報告のある型の中でも、代表的なものを4つご紹介します。

H3N8型(馬インフルエンザが犬へ感染、犬での流行あり)

 犬で最初にインフルエンザの感染が認められた型で、2004年にアメリカ・フロリダ州のドッグレースに参加していたグレイハウンドに高熱や咳などの呼吸器疾患がみられました。レース会場の近くで飼育されていた馬からほとんど同じ型のウイルスが見つかっており、変異して犬へ感染したと考えられています。その後、全米各地で犬から犬へと感染したことから、犬インフルエンザとして定着し流行を繰り返しました。日本では感染報告はありませんが、近国では、中国で報告があります。

インフルエンザウイルスは変異するため、動物種が異なるからといって安心はできません。

インフルエンザウイルスは変異するため、動物種が異なるからといって安心はできません。

H3N2型(鳥インフルエンザが犬へ感染、犬での流行あり)

 2007年に韓国で鳥から犬へ感染し、中国南部やタイなどでも犬への感染報告があります。2015年には、アメリカ・シカゴにある犬の保護施設で、アジアから来た犬を介在して1,000頭を超える集団感染が発生しました。アメリカでは20州以上で感染が拡大したと報告されています。

H1N1pdm型(人インフルエンザが犬へ感染、犬での流行なし)

 この型は、元々は豚のインフルエンザで、2009年に「新型インフルエンザ」として人で流行しました。過去にスペインかぜとして世界各地で人に流行したインフルエンザもこの型だと言われています。犬では、2009年にアメリカと中国で人からペットの犬への感染報告があります。日本国内の犬の調査では、人の型のインフルエンザウイルスに対する特異抗体が検出されたことから感染歴が示唆されましたが、発症の記録はありません。

高病原性H5N1型(高病原性鳥インフルエンザが犬へ感染、犬での流行なし)

 病原性が高い鳥インフルエンザで、死亡率の高い型です。2004年にタイで、この型のインフルエンザウイルスを保有していたアヒルの死骸を食べた犬に、高熱と呼吸器症状が確認され死亡しました。その後も、この型のインフルエンザが発生した地域では、犬や猫、他の哺乳動物が、鳥インフルエンザに感染した鳥を食べた後に発症し、死亡する事例が生じています。

参考
国立感染症研究所感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html

インフルエンザの感染経路とその症状

 犬がインフルエンザウイルスに感染する経路として「接触感染」と「飛沫感染」があり、感染をするとどのような症状がみられるのでしょうか。

接触感染

 インフルエンザウイルスに感染した犬の鼻汁や唾液には多くのウイルスが存在します。感染した犬と一緒に遊ぶなど直接的な接触によって感染します。ほかにも、感染した犬が使用した食器やおもちゃ、給水ボトルやケージ、飼い主さんの衣服などとの間接的な接触によっても感染します。

飛沫感染

 ウイルスに感染した犬がくしゃみや咳をした際に、ウイルスを含んだ飛沫をほかの犬が吸い込むことで感染が広がります。

犬は様々な場所をなめますので、ブラシや飼い主さんの手も注意が必要です。

犬は様々な場所をなめますので、ブラシや飼い主さんの手も注意が必要です。

犬インフルエンザの症状

 犬インフルエンザの症状は、くしゃみや鼻水、咳、発熱、だるさや食欲不振などがみられます。感染した犬のほとんどは軽症(死亡率10%程度)で、2〜4日の潜伏期間を経て発症後3週間以内に完治することが多いとされています。ただし、重症化した犬ではウイルスの増殖や二次感染等によって肺炎を起こし、死亡する場合があります。

 また、日本国内でもよく見られるケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)は犬インフルエンザの症状と似ており、迅速な鑑別は難しいと言われています。犬にこのような症状がみられた場合には、時間を要する確定診断ではなく、まず治療(呼吸器感染症の治療や合併症対策など)を優先することが重要です。

単なるくしゃみや咳と見過ごさず、動物病院でみてもらうことが大切です。

単なるくしゃみや咳と見過ごさず、動物病院でみてもらうことが大切です。

犬のインフルエンザは人には感染しない?

 馬や鳥などから犬への感染報告に加え、人から犬へ感染した可能性が報告されているように、インフルエンザウイルスは変異を繰り返し、種族を超えて感染します。そのため、今後も犬から人へ感染はないと断定することはできません。

愛犬が犬インフルエンザになってしまった時の対処法

 ご家族や友人など愛犬と接触する人や愛犬自身が、インフルエンザが流行している国や地域への渡航歴がある場合は、注意が必要です。万が一、愛犬が犬インフルエンザになってしまった時にはどのような対処をすべきなのでしょうか?

軽症の場合

 まずは、安静と栄養管理に徹します。加湿や室温調整、水分補給も忘れず行いましょう。症状が3週間以上続く場合や、ワクチン接種をしてない犬や、子犬や老犬は重症化しやすいため、軽症でも動物病院に連れて行きましょう。また、ほかの犬との接触を避けるため、感染症が疑われ動物病院を受診する場合には、受診前に動物病院へ電話するようにしましょう。

重症の場合

 高熱が続いたり、舌の色が暗赤色〜紫色に変色したり、呼吸困難に陥っているような場合には、急いで動物病院に連れて行きましょう。この場合も、動物病院へは受診する前に電話をしておいたほうがよいでしょう。

 二次感染やウイルスの混合感染などにより重症化すると、脱水、重度な気管支や肺炎などの症状がみられます。治療としては、主に二次感染の治療や酸素吸入、補液や抗生剤や消炎剤、免疫活性剤の投与などが行われます。

多頭飼いの場合の対処方法

 インフルエンザに感染しても潜伏期間が2〜4日あり、犬は無症状なことがほとんどです。しかし、その間も唾液などから病原体であるインフルエンザウイルスは排出されているため、多頭飼いをされている場合には、ほかの犬もすでに感染している可能性が考えられます。

 もし、愛犬に犬インフルエンザの感染が疑われる場合には、愛犬同士が接触しないよう、それぞれ別の部屋へ速やかに隔離しましょう。感染経路でご紹介したように、唾液にはたくさんのウイルスが存在しますので、ケージや食器、給水機、床材、タオルなどは塩素系の消毒液や洗剤を使って消毒しましょう。

 また、症状がない愛犬も数週間は発症しないか毎日体温測定を行いながら観察しましょう。

消毒液の種類によっては、動物が口にすると危険な物質が含まれていることがあります。愛犬が口にするような食器類やおもちゃなどの消毒を行った後には、消毒液を綺麗に洗い流しましょう。

消毒液の種類によっては、動物が口にすると危険な物質が含まれていることがあります。愛犬が口にするような食器類やおもちゃなどの消毒を行った後には、消毒液を綺麗に洗い流しましょう。

犬インフルエンザの予防対策

 冒頭でお伝えしたように、現時点は日本国内での犬インフルエンザの発症報告はまだありません。そのため、最大の予防対策としては犬インフルエンザを日本国内で発症させないことです。そして、万が一発症してしまっても、感染を広げないように適切な対応を心がけましょう。

 また子犬に多く、風邪のような症状がみられる「ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)」の対策もしっかりしておきましょう。原因のひとつである「犬パラインフルエンザウイルス」は、重度の気管支炎を引き起こすことがあります。インフルエンザと似た症状がでることから、その名がつけられました。犬パラインフルエンザには、現在日本国内でも感染をする可能性がありますので、その予防対策をご紹介します。

混合ワクチンによる予防接種

 犬パラインフルエンザウイルスは混合ワクチンの摂取で予防対策ができます。また、犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス2型に感染をするとくしゃみや咳といった症状がみられ、同じくケンネルコフの原因となります。これらのウイルス感染も混合ワクチンで予防対策できるため、定期的に混合ワクチンを接種しておくことをおすすめします。

 犬のワクチンについて詳しくは「犬の予防接種|狂犬病・混合ワクチンの種類と費用」をご覧ください。

 旅行やお仕事など海外への渡航が難しい時代ではありません。それは、ウイルスなどの病原体も同様で、各国で発生した感染症は、常に世界中で感染を拡大させるリスクがあります。現在、日本に存在しないウイルスでも、海の向こうの話では決してありません。愛犬と安心した生活をおくるためにも、事前の対策や予防をぜひ実行しましょう。

参考
日本獣医師会雑誌 犬及び猫のインフルエンザ 公衆衛生委員会(日本獣医師会公衆衛生部会常設委員会)の見解
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/59/7/59_7_437/_pdf/-char/ja
日本獣医師会雑誌 犬インフルエンザ 堀本 泰介 2017年 70巻 3号 p.165-169

白神久輝先生
監修 /
白神 久輝 先生
 埼玉県草加市にある「ぐぅ動物病院」の院長。2005年4月の開院以来、大学病院や専門病院と連携をとりながら、常に最先端の技術や機器を導入しており、飼い主さんにもわかりやすい説明でサービスを提供し続けている。また病気になりにくい体づくり(予防、日常ケア)のアドバイスも積極的に行っており、地域のかかりつけ医・中核病院として親しまれている。
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