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法人名義の車の個人使用は認められる?
社用車を私的利用するリスクと注意点

更新日:2024年12月12日

公開日:2024年7月31日

法人名義の車の個人使用は認められる?社用車を私的利用するリスクと注意点

社用車のプライベート利用を考えていたり、個人利用を税務調査で指摘されないかなど、法人名義の車を個人使用することについてのリスクを心配する経営者の方も少なくはないでしょう。社用車を私的利用することに問題はないのかという点や、個人使用に該当する使い方やリスク、企業としての対策について解説します。

法人名義の車を個人使用しても問題ない?

法人名義の車は業務用で利用することを前提としているため、どこからが個人利用とされるのか議論に上がることが多いかと思います。法人名義の車を個人使用した際に、どこからが個人利用にあたるのか、法人名義の車を利用する際の前提となる考え方などを解説していきます。

原則、法人名義の車を個人使用することは認められていない

法人名義の車は、仕事に必要なものとして所有する社用車です。そのため、車両の購入費や駐車場代、ガソリン代、税金や保険料などの費用を全額経費として計上できます。

個人事業主の場合は個人名義の車を仕事とプライベートの両方で使うことが多く、仕事で使った割合だけを経費とする家事按分が認められています。しかし、法人には個人事業主のように家事按分という考え方はありません。法人名義の車は、「業務で使用する」ことが目的であって、個人使用は想定されていません。

法人名義の車の個人使用は違法ではない

法人名義の車は、原則個人使用は認められていませんが、私的な利用が違法となるわけではありません。実態として、業務でのみ使用するのを徹底するのが難しいケースも少なくないためです。例えば、家族経営の会社で法人名義の車を所有している場合、商品運搬などの業務の合間に私的な利用が発生する可能性が考えられます。ただし、こうした使い方は認められない場合もあり、リスクを認識しておくことが大切です。

また、企業によっては就業規則内に車両管理規程などを整備し、社用車を個人使用できるように制度化しています。この場合であっても、法人としてのリスクをゼロにすることはできないため、ルールの範囲内で適正な運用を確保してください。

どこからが個人使用にあたるのか?

法人名義の車は、原則として個人使用は認められません。どのような場合が私的な利用に当たるのか、考えられるケースごとに紹介します。

寄り道

法人名義の車の個人使用は、寄り道が代表的です。特に、営業車のような外回りをする時間の長い車の場合、寄り道は発生しやすくなります。例えば、次のクライアント先へ行くまで途中に個人的な買い物をしたり、仕事の合間にコンビニで飲み物を買って駐車場で休憩するなどのケースが考えられます。このような寄り道は「業務のため」という理由が成立せず、私的な用事が目的となります。

休日の利用

所定休日や法定休日など、会社が休みの日に社用車を使うのも個人使用に当たります。社用車は業務のために使用する車なので、業務のない日は乗る必要がないためです。例えば、旅行の移動手段として社用車を使用したり、引っ越しの際に大型の車が必要となり社用車を使用した、などのケースがあります。

法人名義の車を個人使用する場合に注意すべきリスクとは?

個人使用によって想定されるトラブルには、以下に解説するものが考えられます。

交通事故で会社が法的責任を問われるリスク

社用車で、事故を起こしたり事故に巻き込まれた場合、企業として使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性があります。事故の際に運転していた従業員だけでなく、会社側にも雇用主として責任があります。車の運転時間や移動距離が増えるほど事故の確率が高まるため、社用車を管理する立場としても事後処理対応のリスクも増すことになります。

盗難や情報漏洩のリスク

社用車の個人使用は、車自体の盗難や、車内の財物(モノ)が盗まれることによる情報漏洩のリスクにもつながります。社用車を社外の駐車場や路上に止める際、セキュリティ対策が十分でないと盗難の可能性が高くなります。特に、仕事で使用しているPCや書類など、重要な情報を保持している手荷物を車内に置きっぱなしにすることがないよう注意する必要があります。

会社の信用を毀損するリスク

社用車の個人使用は、企業イメージをダウンさせるリスクもあります。例えば、業務上ふさわしくない場所への訪問や不適切な駐車、社名の入った社用車で交通事故を起こしたことなどが、取引先の会社や顧客に広まると社会的信用を失うことになります。近年におけるSNSによる情報拡散の可能性を考えると、会社の悪評につながりかねません。

社用車に関する業務量や経費が増えるリスク

社用車を個人で利用できるようにした場合、関連する業務が増加すると考えられます。例えば、個人で利用する際の規則作成・周知、社用車を利用する従業員教育など、リスクを抑えるために必要な施策を実施しなければなりません。また、万一、事故を起こしてしまった場合には、事故処理などの対応に社員の労力が割かれます。さらに、個人的な使用が増えれば、ガソリン代などの経費負担も大きくなります。社用車自体の劣化も早まるため、本来会社が負担する必要のないコストが発生し、業績に影響を及ぼす可能性がある点もリスクの1つです。

社用車の経費計上を否認されるリスク

法人名義の車であっても、個人使用の比率が高ければ社用車として認められず、計上した経費が税務調査で否認される可能性があります。業務内容から鑑みて走行距離が異常に長い場合や、買い替え頻度が高い場合は、指摘を受けるリスクも高まるでしょう。調査の結果、経費として認められなければ、社用車の節税メリットがなくなるだけでなく、過少申告加算税や延滞税、悪質な場合は重加算税が課されることもあります。また、特定の個人の利益になっていると判断された場合、その人の所得税や住民税の負担が増すことになります。

法人名義の車を個人使用する前に必要な対策は?

社用車を私的に利用する際は、以下に解説する必要な備えをしっかりしておきましょう。

就業規則などに社用車の使い方に関するルールを明記し、周知徹底する

社用車の個人使用を会社として認める場合は、就業規則などでルールを明文化し、周知徹底することが前提となります。社用車による事故やトラブルを回避するために規則の策定時は、以下のような項目を含めるようにしましょう。

  • 社用車の使用権限を持つ従業員の範囲
  • 個人使用が認められる範囲
  • リスク低減のための禁止事項
  • 運転免許証の提出義務
  • 運転記録の提出・保管方法
  • 個人使用の場合の費用負担や補助金
  • トラブル時の対応方法
  • 規則に違反した場合の罰則

周知の際は、従業員個人が事故や盗難などにより法的責任を問われる可能性があることを伝え、リスク管理の重要性を理解してもらうことも大切です。リスク回避に重点を置いた規程の策定をするために、社会保険労務士などの専門家に就業規則のコンサルティングを依頼する方法もあります。

なお、企業は従業員の「運転記録証明書」を取得することも可能です。運転記録証明書とは自動車安全運転センターが発行する書類で、運転免許保持者の過去の違反や行政処分が確認できます。リスクの高い従業員の把握と研修の実施、優良ドライバーの表彰制度などに役立てられます。

交通事故や盗難にあった場合の責任の所在や処分を明確にしておく

社用車の個人使用中の事故や盗難で被害が発生した場合、問題となるのは「誰にその責任があるのか」という点です。運転していた従業員個人が民事上・刑事上の責任を問われますが、会社側も従業員と連帯して損害賠償責任を負う立場にあります。双方の責任範囲や処分などを事前に明確にし、それぞれ適正な運用を心がけましょう。

事故の被害を最小限に抑えるための緊急時の対応マニュアルを整備する

交通事故や盗難、災害などの緊急時は初期対応が非常に重要です。社用車の運用に責任を負っている以上、事故が起こった場合の被害を最小限にする必要があります。トラブル時に従業員に適切な行動をしてもらうためにはマニュアルの整備や日常の訓練が有効的です。緊急連絡先のリストや車検証・保険証券の保管場所、万一の際の対応方法などを確認する機会を設け、スムーズな対処ができるよう仕組みを整えておきましょう。

事業車として使用していることを証明できる根拠を保管する

法人名義の車の経費計上が税務調査で指摘された場合、その車が事業目的で使用されていることを証明しなければなりません。その際に重要となるのが、根拠資料やデータです。例えば、社用車ごとの走行履歴や稼働状況がわかる資料や、営業・出張などで利用したことがわかる明細書や領収書はしっかり管理、保管しておきましょう。

プライベートで利用する場合の「使用料」を設定する

社用車の個人使用による経費計上は、税務調査で問題となる可能性があります。このリスクを下げるために、私的な理由で利用した分の使用料を従業員に負担してもらうという方法もあります。その場合、就業規則などに費用を規定してルール化する必要があるため、慎重に検討しましょう。ただし、使用料の根拠は合理性が判断しにくく、実質的にこの方法で適正な運用をするのは難しい部分もあります。

個人名義の車と判断されかねない要素は排除する

個人名義の車のような扱いをしているとその社用車は事業のために必要な資産として認められない可能性が高くなります。たとえば、社用車にも関わらず従業員の自宅駐車場に長期間保管されていたり、従業員の家族が雇用契約なしに法人名義の車を使用するなど、業務での使用とはかけ離れた扱いは避けましょう。従業員が会社の車を私的に利用する場合であっても、社用車はあくまで業務用であることを念頭に、使用範囲は適切に管理しましょう。

交通事故や盗難のリスクに備えて自動車保険に加入しておこう

法人名義の車の個人使用は、原則として認められません。就業規則などでルールを明文化する方法もありますが、企業としてのリスクをゼロにすることはできない点をしっかり認識した上で検討するようにしましょう。また、交通事故や盗難などの緊急事態に備えて、法人用の自動車保険への加入と適切な補償内容を選択することも大切です。

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法人名義の車の使用に関するよくあるご質問

  • 通勤で社用車を利用することはできますか?

    会社の代表者や役員などが通勤で社用車を利用することは可能です。ただし、事故などのリスクがある以上、慎重に判断しなければなりません。この点は顧問税理士などによっても意見が分かれるため、迷った場合は顧問税理士や顧問弁護士などへご相談ください。

    また、従業員に社用車での通勤を許可する場合であっても、就業規則などでルールを定めるようにしましょう。万が一事故が起きた際、通勤経路の合理性や責任の所在を判断する指標の一つとなるからです。通勤時間は労働時間ではないため、従業員の寄り道が発生する可能性が高く、事故や盗難のリスクも上がります。会社としてのリスク回避を考えた場合、社用車による通勤の許可は慎重に検討する必要があります。

  • 社用車の個人使用について税務調査で指摘されたらどうなりますか?

    税務署からの指摘に対して、業務上必要であることや業務で使用している事実を証明できなければ、社用車として認められず、社用車関連の経費は否認されます。その分、法人の課税所得が増えるので、税率も上がります。また、本来個人が負担すべきだった費用を会社が負担していたことになるため、否認された費用は個人の利益として給与に上乗せされるでしょう。

    こうしたケースでは、会社も個人も実際の所得より少ない金額を申告していたことになるため、ペナルティとしての追徴税が課せられる可能性があります。追徴税とは、所得を少なく申告した場合に課せられる過少申告加算税や、期限内に納税しなかった場合の延滞税、事実を隠すような悪質性が認められた場合の重加算税などのことです。

  • 無断使用だった場合は企業責任を免れることができますか?

    就業規則などで社用車の無断使用の場合について、会社側では責任を負わないと規定しても、すべてのケースで企業責任を免れるわけではありません。例えば、無断使用であっても、実態として業務との関連性が認められれば、使用者責任や運行供用者責任を問われる可能性はあります。

監修者 吉田 奈央

2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、一種外務員資格

監修者 吉田 奈央

2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、一種外務員資格

大学卒業後、地方銀行、投資系コンサル会社を経て、2021年独立。金融機関や保険会社、不動産会社が運営するメディアを中心に、編集者として記事執筆や運営に携わる。お金や保険、不動産に関して『知らないだけで損をしてしまう人』を減らすべく活動中。

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