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社用車で事故が起きたら誰が責任を負うのか?
会社の対応方法を解説
更新日:2025年1月21日
公開日:2024年5月15日
車を運転している限り、事故リスクは常に存在しています。どんなに注意していても、事故は完全には防げません。会社が所有する車を従業員が運転していて事故を起こした場合、会社はどのような責任が問われるのでしょうか。会社と従業員が負うべき責任と必要な対応について解説します。
社用車の事故、従業員と会社が負う責任とは
社用車で事故を起こした場合、車を運転していた従業員だけでなく会社にも責任が発生する可能性があります。従業員と会社それぞれに問われる責任について詳しく解説します。
運転者である従業員の責任
運転者である従業員が負う責任は、「民事上の責任」「刑事上の責任」「行政上の責任」の3つに分けられます。「民事上の責任」では民法709条の不法行為責任が問われます。社用車での事故であっても、運転していた従業員には個別での責任が問われる場合があります。
民事上の責任
民法709条(不法行為による損害賠償)にもとづき、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負わなければなりません。社用車での事故の場合、「民事上の責任」は会社との連帯責任となり、運転者である従業員個人も被害者に対し、民事責任を負う必要があります。
刑事上の責任
事故によって相手の方を死傷させ、過失運転致死傷罪などに問われた場合、事故の内容次第では罰金や懲役、禁錮などの刑事罰が科せられます。また、刑事上の責任は運転者本人だけでなく、会社の代表者など、社内で運転者を管理する立場にある人も問われる可能性があります。
行政上の責任
事故を起こした場合の運転免許に対する処分です。違反内容や事故の重大さによって交通違反の点数が付加され、免許の取り消しや停止などの制限を受けることもあります。
所有者である会社の責任
従業員が業務中に社用車で事故を起こした場合、会社が問われる責任は「使用者責任」と「運行供用者責任」の2つです。
使用者責任
使用者責任とは、民法715条(使用者等の責任)にて従業員が他人に損害を与えてしまった場合に、連帯責任として会社も損害賠償責任を負うことが定められている責任のことです。使用者責任は、原則として業務中の事故に対して問われるものです。ただし、業務時間外や私的利用が目的の場合でも、社用車の使用が業務の範囲と判断されれば、会社も従業員の不法行為に連帯して責任を負う可能性があります。
運行供用者責任
運行供用者責任とは、車を自分の管理下で運行させて利益を得ている人(運行供用者)が、その運行で他人の生命または身体に損害を与えた場合に負う責任のことです。自動車損害賠償保障法第3条(自動車損害賠償責任)に規定されている運行供用者責任は、車が会社の管理下にある場合に適用されるため、業務外利用でも認められる可能性があります。なお、運行供用者責任が生じるのは、治療費や慰謝料などの人的損害のみで、車や財物(モノ)などの損害には生じません。
社用車の運転に関して事故が発生するケース
従業員が車で事故を起こした場合、会社が問われる責任は業務との関係や、車の管理状況によって異なります。業務中に起こした社用車の事故では、会社は使用者責任と運行供用者責任の両方が問われることが一般的ですが、それ以外にも次のようなケースがあります。
業務時間外の社用車での事故
業務時間外であったとしても、社用車での事故である以上、人身事故の場合は会社が運行供用者責任を問われる可能性があります。
なお、使用者責任については、社用車の使用が業務の執行にあたると判断されるかどうかで変わってきます。
業務中のマイカー・リース車などの使用中の事故
会社名義の車でない場合でも、その使用を指示、容認または黙認していたのであれば、原則として使用者責任と運用供用者責任の両方が問われると考えられます。ただし、マイカーの使用を禁止しているにもかかわらず、従業員が会社に無断でマイカーを運転していた場合は、業務ではなくプライベートでマイカーに乗っていたことになるため、事故における会社の責任は否定される可能性があります。
社用車での事故で会社が負担する費用
社用車での事故が発生し、会社と従業員の双方が責任を問われた場合、両者は連帯して損害を賠償することになります。それぞれの負担割合はケースバイケースですが、具体的にどのような費用が発生するのか、事故の際に発生する金銭的な負担について解説します。
社用車の修理費用
会社は従業員の活動によって利益を得ているため、従業員の業務中のリスクについても負担するべきという考え方があります。そのため、一般的には社用車の修理費用は会社負担とされます。ただし、従業員の重過失が認められる場合は、会社が負担した損害額の一部を従業員に求償できるケースもあります。
従業員の治療費
社用車の事故で従業員がケガを負った場合、会社が治療費を負担するのが一般的です。ただし、労災保険が適用されれば、治療費は労災保険によって補償されます。
事故相手への損害賠償金
事故の相手方の車や財物(モノ)などに損害を与えてしまったり、ケガをさせてしまった場合は、事故状況に応じて損害賠償責任が問われます。車や財物(モノ)への損害では修理費用等、相手のケガの損害では治療費のほかに休業損害や逸失利益、慰謝料などを支払わなければなりません。被害者から損害賠償を求められた場合は、従業員と会社の連帯責任となります。
社用車で事故を起こしたときに行うべき対応
社用車での事故発生時は、会社と従業員(運転者)のとるべき対応はそれぞれ異なります。特に、従業員が事故現場でどのように対処するかは、被害を最小限におさえるだけでなく、その後の対応をスムーズに進めるためにも重要なので、マニュアルなどを定めておくことをおすすめします。
従業員が行うべき対応
従業員が事故に遭った際、会社への報告を迅速に行ったり、二次事故や法的トラブルを防ぐために、冷静で適切な対応ができるよう指導する必要があります。
1, 安全な場所で車を停める
事故が発生した際は、車を直ちに安全な場所に停めます。車が動く状態であれば、後続車や通行人の安全を確保するため、道路の端や安全なスペースに移動させるよう徹底しましょう。車を停めた後は、速やかに事故の状況を確認します。
2, ケガ人を救護する
事故によって負傷者が出た場合は、すぐに状態を確認し、可能な限りの応急処置を行わなければなりません。必要に応じて救急車を呼び、医療機関で処置が受けられるよう手配することも大切です。事故直後は痛みを感じないこともありますが、時間が経ってから症状が現れることも珍しくないため、軽傷に見えても適切な医療処置を怠らないよう指導しましょう。
また、従業員がケガを負った場合も、速やかに病院で診察を受けさせ、労災の申請をサポートします。これにより、後々の治療や補償の手続きがスムーズに進みます。
3, 安全を確保する
事故後、二次事故を防ぐためには、事故現場の安全確保も重要です。ハザードランプや三角表示板、発煙筒などを使用し、後続車に事故の発生を知らせるよう徹底しましょう。特に、高速道路での停車は二次事故の危険性が高いため、停止表示器材の使用が法律で義務づけられています。日頃から必要な器材を携行させておくといった対応が、万一の際に従業員や周囲の安全を守ることにつながります。
4, 警察に連絡する
交通事故が発生した場合、法的義務として直ちに警察へ通報しなければなりません。警察官が現場に到着した際は、落ち着いて事故の状況を説明するよう指導します。具体的には、次のような情報が必要です。
- 事故発生の日時と場所
- 死傷者や負傷者の有無と、その状況
- 車や財物(モノ)の損壊状況
- 事故に関与した車や積載物
- 事故後に行った対応
警察に報告しなければ「交通事故証明書」が発行されず、後の保険手続きがスムーズに進まなくなる可能性があります。自己判断で解決しようとせず、必ずその場で通報するよう周知することが大切です。
5, 事故の状況を記録する
事故が発生した際は、記憶が鮮明なうちに、事故の詳細をメモに残したり、スマートフォンなどで撮影しておくように指導しましょう。車の損壊箇所や道路状況、信号の状態など、事故に関する情報を客観的に残しておくことが重要です。また、目撃者がいる場合は、目撃者の連絡先や目撃内容も記録しておくと、後の調査に役立つ可能性があります。ただし、相手方と賠償金に関する約束や過失に関する話はトラブルに発展するため、不用意に話すことは控えるよう指示してください。
6, 会社へ報告する
社用車での業務中の事故では、会社と従業員が連帯して責任を負う可能性があるため、従業員に会社へ連絡してもらい、事故発生の事実と現場での対応状況を正確かつ詳細に聞き取ります。必要に応じて、事故報告書の作成を求めるのも有効です。その際は、事故現場の写真やメモなどの記録をするよう従業員にアドバイスします。会社側が事故後の対応を適切に行うためにも、正確な情報を報告してもらう工夫が大切です。
会社が行うべき対応
従業員から事故の報告を受けた際、会社は事態を正確に把握し、必要な手続きを確実に進める必要があります。従業員や被害者への補償、保険対応などを円滑に進めるための手順を解説します。
1, 事故の状況を確認する
事故の報告を受けたら、会社は事故の詳細を確認し、従業員に具体的な指示を出す必要があります。「従業員が行うべき対応」の内容に沿って、従業員が次に取るべき行動を速やかに指示しましょう。特に事故直後は、運転者が混乱することもあるため、会社の冷静な対応が支えになります。必要に応じて、現場にとどまるべきか、治療を受けるべきかなど、従業員の安全確保にも配慮することが大切です。
2, 状況に応じて管理者が現場に向かう
事故の状況によっては、従業員が負傷し、自身で事故対応を進められない場合もあります。そのようなケースでは、管理者が現場に駆けつけ、従業員に代わって事故対応を行うことが必要です。負傷の程度が大きい場合や、現場での対応が複雑な場合には、管理者の存在が重要となるため、従業員の状態を考慮しつつ、会社として適切な対応を心がけましょう。
3, 保険会社へ連絡する
交通事故が発生した際は、速やかに会社が契約している保険会社へ連絡し、事故の詳細を報告します。事故の発生場所や車の損壊状況、目撃者の有無などを、正確に伝えるようにしましょう。また、対人事故の場合は、事故発生日から60日以内に書面による通知をしないと、保険金が支払われないという特則が設けられている場合があります。相手方の氏名や住所、連絡先、加入する保険会社といった情報も必要です。
4, 交通事故証明書を取得する
事故発生後、保険手続きなどに必要となるのが交通事故証明書です。事故の届出を警察へ行った後、各都道府県の自動車安全運転センターに申請することで発行されます。交通事故の事実を証明する公的書類である交通事故証明書には、事故の発生日時や場所、関係者の情報などが記載されており、補償や賠償に関わる手続きの際に提出を求められることがあります。ただし、保険会社が手配する場合は、会社で申請する必要はありませんので、保険会社への報告の際に確認しておきましょう。
5, 交通事故報告書を提出してもらう
社用車で事故が発生した場合、事故後の対応を円滑に進めるため、運転者本人に「交通事故報告書」を提出してもらいましょう。報告書には、事故の原因や発生状況、損害・被害などを記載してもらい、会社として事実を把握できるようにします。これにより、再発防止のための対策が検討できるようになります。報告書は、特に書式が決まっているわけではないため、あらかじめ会社でテンプレートを用意しておくとよいでしょう。
社用車での事故を防ぐため会社が行うべき取り組み
会社は社用車で事故が起きたときに賠償責任を果たすだけでなく、事故を起こさないようにする社会的責任も負わなければなりません。事故防止のための対策について、会社が積極的に行うべき取り組みを解説します。
交通安全研修を行う
車を運転する業務に従事する従業員全員に交通安全研修を実施して、安全運転の心得を身につけさせます。定期的に実施することで、運転技術の向上や、安全運転への意識向上が図れます。
ドライブレコーダーを導入する
ドライブレコーダーの導入により、従業員の運転行動を映像で記録として残せるため、安全運転の指導に活用できます。また、事故が起きた際、ドライブレコーダーの映像は客観的な証拠になるため、事故解決を円滑に進めることができます。
社用車の管理を徹底する(メンテナンス)
社用車のメンテナンスに不備などがあった場合、不具合から事故が発生する可能性もゼロではありません。日頃から、整備・メンテナンスは入念に行うことが重要です。専門知識を有した業者が実施する車検や定期点検はもちろん、自分たちの手でしっかりと日常点検を行いましょう。日常点検でチェックする項目や頻度についてルールを決めておくと、より安全に社用車を管理できるでしょう。
従業員の健康状態を把握する
会社が従業員の労働時間を適切に管理して、休息・睡眠時間を確保し、従業員の心身を健康に保つことも大事です。社用車を運転する従業員の健康チェックも日々行いましょう。
事故防止機能のついた車に変える
事故防止のためにどんなに点検や研修を行ったとしても、やはり運転手の技量や注意力、そして判断力に大きく左右されてしまうのが実情です。衝突や誤発進、車線の逸脱などを予防するためのシステムなど、安全装置が備わった車であれば、従業員の安全と安心を確保しやすいといえるでしょう。
社用車の事故で生じる責任を理解し、備えを万全にしよう
社用車での業務中の事故は会社側にも責任が問われます。金銭的な損害に加え、会社の信頼も損なう可能性があるため、日頃から事故防止の取り組みが重要になってきます。また、従業員が社用車を運転する際は、常に事故リスクが存在していることを理解し、万一に備えることが大切です。
アクサダイレクトでは、法人向け自動車保険を取り扱っています。豊富な補償から業種ごとのリスクや条件に合わせて補償内容を組み合わせることができます。従業員や会社を守るためにも、法人向け自動車保険への加入をご検討ください。
監修者 佐藤 寿美礼
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP(日本FP協会認定)
監修者 佐藤 寿美礼
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP(日本FP協会認定)
2016年からフリーランスとして活動。金融や投資、税金、保険、住宅ローン、不動産、社会保障制度など、「お金」関係の記事を中心に編集や執筆をしています。子どもの大学進学やマイホーム購入などをきっかけに、お金の管理に興味を持ち、投資や保険、法律などを勉強中です。