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業務中・通勤中の交通事故は労災保険で補償されるのか?
自動車保険との併用についても解説!
更新日:2024年12月12日
公開日:2024年11月12日
従業員が業務中・通勤中に交通事故にあってしまった場合、労災保険と自動車保険でどのように補償されるのでしょうか?労災保険の概要や補償内容、自動車保険との併用について解説します。
労災保険とは
労災保険とは、労働者の安全と健康を守るための社会保険の一種です。労働者が業務中に被ったケガや後遺障害、死亡してしまった場合に対して必要な保険金を受け取ることができます。補償の対象は「労働者」で、雇用形態を問わず、労働者を1人でも雇っている会社は加入する義務のある強制保険です。社長や役員などの経営者はその対象に含まれませんが、労働者と同じように仕事をしている場合に限り、労災に加入できる特別加入制度もあります。
ここでは、主な補償内容や手続きの流れなど、労災保険の概要について解説します。
労災保険による補償を受けるための条件
労災には「業務災害」と「通勤災害」の2分類があり、それぞれに労災で補償してもらうための認定基準が設けられています。
業務災害
業務と傷病などとの間に一定の因果関係があることが求められます。事業主の支配・管理下で業務に従事している最中の災害であれば、原則業務労災と認定されます。ただし、従業員の故意や私的行為と判断された場合は補償の対象外となります。
また、出張先での災害は事業主の管理下ではなくなりますが、事業主の支配下にあると解されるため、業務災害の認定対象となります。
通勤災害
通勤中に発生した災害である必要があります。そのため、ケガなどを負った日に就業することになっていた、または実際に就業していたことが大前提となります。会社が認めている合理的な経路・移動手段であれば、原則通勤災害と認定されます。ただし、私用での寄り道途中など就業に関連性がない場合は補償対象外となります。
労災保険の主な給付
労災保険の主な給付には、以下のようなものがあります。
- 業務災害または通勤災害によるケガや病気などに対する療養給付や休業給付
- 療養後に後遺障害が残った場合、等級に応じた年金や一時金が受け取れる障害給付
- 業務災害または通勤災害により従業員が死亡した場合、遺族の人数に応じて年金や一時金が支払われる遺族給付
など
労災保険の保険料の負担者・保険料率
保険料は全額事業主の負担となります。事業主が労働者に対して支払った1年間分の賃金の総額に労災保険料率を掛けた額が保険料となります。
労災保険料率は事業の種類によって異なり、業種別にみた過去の労働災害の発生状況などから算出されたリスクに応じて決定します。原則、保険料は3年ごとに改定されています。
労災申請の手続き方法
労災申請の主な流れは以下のとおりです。
- 労働者から事業主へ労災事故の発生を報告する
- 労働者または事業主は労災申請に必要な書類をそろえ、労働基準監督署に提出する
- 労働基準監督署にて調査・審査が行われる
- 給付が決定すると通知があり、給付金が支給される
申請手続きは、原則として被災した労働者本人が行うことになっています。一方で、事故のため被災した労働者本人が自分で手続きできない場合、事業主は申請手続きのサポートが義務付けられています。そのため、事業主が申請手続きを代行することも可能です。事業主へ労災事故の報告をする際、どちらが申請手続きを行うのか確認しましょう。
労災申請で必要な書類は、請求する給付の種類ごとに異なります。所定の様式があり、労働基準監督署のウェブサイトでダウンロードすることができます。車同士の事故などで双方に過失がある場合、労災保険の申請には「第三者行為災害届」の提出が義務付けられていますので覚えておきましょう。
業務中・通勤中の交通事故はどう補償される?
被害事故の場合
業務中・通勤中に交通事故の被害にあってしまった場合、加害者側の自動車保険(任意保険と自賠責保険)で補償してもらうのが一般的です。その場合には、加害者側から治療費だけでなく休業損害や慰謝料などの損害賠償金が支払われますので、被害者側の労災保険をわざわざ使う必要はないと思われるかもしれません。しかしながら、実際には労災保険を使用したほうがよいケースもあります。
加害事故の場合
業務中・通勤中に加害事故を起こしてしまった場合、会社やご自身が加入している自動車保険(運転していた車の自動車保険)で対応してもらうのが一般的です。ご自身がケガをしている場合は、人身傷害保険や搭乗者傷害保険での補償になりますが、自動車保険だけを使うのではなく、労災保険の利用に努めていただくよう約款などに記されています。
労災保険を使うメリット
被害者にも過失がある場合、過失割合分の自己負担額が発生します。
労災保険を使わず、自動車保険を優先した場合には自由診療での対応になることから、治療費が高額化する可能性があります。そのため、労災保険を使って治療した方が治療費の総額が安くなりやすく、最終的に加害者側から支払われる慰謝料などの損害賠償金を多く受け取れることもあります。
また、労災保険には保険給付とは別に、条件に該当する場合に支払われる「特別支給金」というものがあります。加害者側から支払われる損害賠償金や、会社またはご自身の自動車保険から支払われる保険金とは関係なく通常の保険給付に上乗せして支給されるため、「特別支給金」だけ請求することも可能です。
労災保険を使うデメリット
労災保険の申請をすることは労働者の権利ですが、労災事故が発生すると事業主は労働基準監督署から労災事故の調査を受ける恐れがあり、内容次第では事業主に対してペナルティが与えられたり、労災の保険料が増額したりすることがあるので、事業主が労災保険の申請を嫌がるケースもあります。そのため、場合によっては事業主との関係性が悪化するリスクがあることがデメリットと言えるかもしれません。
なお、保険料が増額することがあるのは業務災害のみで、通勤災害の場合には保険料は増額しません。
労災保険と自動車保険は併用できる?
業務中・通勤中の交通事故であれば、労災保険と自動車保険は併用できます。ここでは、両方の保険をうまく活用するためのポイントをご紹介します。
重複する補償は二重で受け取れない
労災保険と自動車保険は補償の内容が一部重複します。重複する補償については、二重取りできない仕組みとなっているため、支給調整が入ります。
重複する主な補償は以下となります。
- 治療にかかる費用
- 休業に対する補償
- 後遺障害が残った場合の補償
- 介護が必要になった場合の補償
- 葬儀にかかる費用
- 遺族に対する補償
2つの保険で重複しない補償
一方で、労災保険と自動車保険で重複しない補償もあります。
- 労災保険:各種特別支給金、年金、一時金
- 自動車保険:慰謝料、労災保険の給付額を超過する項目に対する損害賠償金
労災保険のみに認められる補償は、労働者の福祉のために支給されるもので、損害の補填を目的とするものではありません。労働者の権利として請求できることを覚えておきましょう。
治療を受ける際、労災保険を使うか自動車保険を使うかを被害者が選べる
労災保険と自動車保険のどちらを優先して使用するかで診療報酬の1点単価が変わってきます。労災保険は1点単価12円(国公立などの医療機関は11.5円)なのに対し、自動車保険は自由診療の扱いとなり、1点単価を病院側で設定します。そのため、労災保険を使用せずに自動車保険を優先して治療を受けるほうが治療費の総額が高くなるケースが多いです。もちろん加害者側から賠償してもらえますが、ご自身に過失割合があり、ケガの程度が重い場合は治療費の自己負担が発生します。最終的な慰謝料などの受取額が減ってしまう可能性もあるので、どちらの保険を優先して使うかは状況に合わせて判断したほうがよいでしょう。加害者側の保険会社はもちろん、運転していた車につけている自動車保険会社に相談することも1つの方法です。
労災保険を積極的に使うべきケース
業務中・通勤中に交通事故の被害にあってしまった場合、ご自身に過失割合がある事故以外にも労災保険を優先して使用したほうがよいケースがあります。それは、加害者が無保険の場合です。加害者が無保険でも、損害賠償金を請求することはできますが、治療費などは一時的に全額立て替えなければなりません。そのうえ、加害者に資力がない場合は、立て替えた治療費を全額賠償してもらえるか分かりません。このような場合、労災保険を使うことで、治療費の立て替えなく治療を受けることができます(*)。ただし、慰謝料は労災保険から支払われないので、加害者に直接請求する必要があります。
労災指定医療機関で治療を受ける場合に限ります。
労災保険について覚えておきたいポイント
最後に労災保険について覚えておきたいポイントをまとめとして紹介します。
- 労災保険は加害者・被害者どちらの立場でも労災事故によるケガや病気が生じた場合は補償となる保険。
- 相手方にも過失がある事故で労災保険を使用する場合、「第三者行為災害」として扱われる(「第三者行為災害届」の提出が必要)。
- 労災保険の申請は原則労働者が行う。ただし、ケガで労働者が申請できない場合は会社のサポートが義務付けられているため、会社が代行申請することも可能。
- 労災事故では健康保険は使用できない。万一、健康保険を使ってしまった場合は、速やかに労災保険に切り替える手続きが必要。
- 自動車保険と労災保険は併用可能。重複する補償については支給調整が入る。
- 労災保険には保険給付とは別に、条件を満たした場合に支払われる「特別支給金」がある。「特別支給金」だけの請求も可能。
- 労災保険と自動車保険のどちらを優先して使用するかは選べる。
万一の事故で十分な補償を受けるためにも、労災保険についてしっかり把握しておくことが大切です。
通勤・業務中の事故では、労災保険と自動車保険は併用が可能
業務中・通勤中の交通事故が労災と認定された場合、労災保険と自動車保険を併用し、損害を補償してもらうことができます。「事故の相手方の自動車保険」「運転していた車に付いている自動車保険」「労災保険」の中からどの保険を優先して使用するかは事故の状況とケガの程度によって異なります。事故が起きてしまった際は、速やかに会社へ報告し、どのように対応するか相談しましょう。
監修者 吉田 奈央
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、一種外務員資格
監修者 吉田 奈央
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、一種外務員資格
大学卒業後、地方銀行、投資系コンサル会社を経て、2021年独立。金融機関や保険会社、不動産会社が運営するメディアを中心に、編集者として記事執筆や運営に携わる。お金や保険、不動産に関して『知らないだけで損をしてしまう人』を減らすべく活動中。