進行性網膜萎縮は、眼の奥にある光や映像を感じ取る部分(網膜)が変性・萎縮してしまい、正常な機能を果たさなくなる病気です。遺伝性の疾患と考えられており、両眼に発生し、徐々に進行して最終的には失明してしまいます。
この病気の猫は、網膜の視細胞(光や色を感じる細胞)が変性・萎縮を起こします。視細胞が減少することで、視力が落ちてしまいます。
視細胞には錐体(すいたい)細胞と桿体(かんたい)細胞があります。錐体細胞は明るい場所で光や色を感じる細胞で、桿体細胞は色を感じないのですが、わずかな光でも感じ取ります。この病気は主に桿体細胞(暗闇での視力)の変性・萎縮がまず始まります。したがって、初期は特に夕方〜夜にかけての暗くなった時間帯に盲目の症状が出やすいです。最終的には錐体細胞(明るい環境で色も感じる細胞)が障害を受け、昼夜問わずに完全に失明してしまいます。また、網膜には細かい血管が広がっていて、眼底部〜水晶体に酸素や栄養を送る働きもしています。網膜が萎縮してしまうと酸素や栄養が欠乏してしまい、水晶体の変性(白内障)も起こりやすくなります。
猫では非常に稀な病気で、アビシニアンやペルシャ猫に遺伝性の進行性網膜萎縮が確認されています。現在は質の高いキャットフードが増加したため少なくなりましたが、栄養性の網膜変性(タウリン欠乏、ビタミンA欠乏、ビタミンE欠乏)や、感染症に伴う網膜炎(伝染性腹膜炎ウイルス感染、白血病ウイルス感染、トキソプラズマ感染など)は、進行性網膜萎縮と似た症状を起こします。視力低下の症状が現れた場合は、これらの病気も踏まえた上で治療方針を立てていきましょう。
初期は夕方〜夜の時間帯に目が見えにくくなります(夜盲)。暗い場所を怖がったり、音に対して敏感になったり、おもちゃを追う遊びをしなくなったり、高いところに登らなくなったり、物にぶつかったり、段差につまずいたりするようになります。症状が進行すると日中も目が見えなくなり、夜間と同様に視力低下の症状が起こります。生後2〜3週齢で視力の障害が確認される早期発症タイプと、生後1歳半〜2歳齢で発症する晩期発症タイプがあります。
猫での発症は非常に稀ですが、アビシニアン、ペルシャ猫で発症が確認されています。アビシニアンでは早期発症タイプと晩期発症タイプが確認されますが、ペルシャ猫で確認された進行性網膜萎縮は早期発症タイプです。
予防、治療共に決定的なものはありません。ただし、命を落としてしまう病気ではなく、徐々に進行する病気なので、猫は視力低下をしっかりと認識し、自分の室内環境や散歩コースを覚えて、盲目になった後も楽しく生活をしている場合が多いと考えられます。飼い主として、目が見えない猫に対してできることは、生活環境をできるだけ変化させずに猫が覚えたままの状態で生活させてあげることです。また音に対して敏感になりますので、静かな環境を用意してあげましょう。遺伝性の疾患なので、万一この病気を発症した場合は、繁殖に使用しないことで今後この病気の発症率を下げることができるでしょう。
また、進行性網膜萎縮と同様に盲目の症状が現れるほかの病気も多数あります。猫の進行性網膜萎縮は非常に稀な病気なので、盲目がある場合は進行性網膜萎縮を第一に疑わず、そのほかの病気を含めて総合的に診断を受けることが大事だと思います。
白神 久輝 先生
埼玉県草加市にある「ぐぅ動物病院」の院長。2005年4月の開院以来、大学病院や専門病院と連携をとりながら、常に最先端の技術や機器を導入しており、飼い主の方にもわかりやすい説明でサービスを提供し続けている。また病気になりにくい体づくり(予防、日常ケア)のアドバイスも積極的に行っており、地域のかかりつけ医・中核病院として親しまれている。
※「病気事典」には「アクサダイレクトのペット保険」の補償対象外の病気や治療内容も掲載されていることがあります。
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