乳び胸
概要
乳び胸とは、腸から吸収された脂肪をたくさん含んだリンパ液(乳び)が、何かしらの原因で胸の肺や心臓〜肋骨の隙間(胸腔)に溜まってしまう病気です。腸で作られた乳びは、腸のリンパ管をとおり胸部でリンパ液の集まる管(胸管)に合流します。胸管は胸の中を頭側にどんどん進み、左の鎖骨のあたりまで進むと、胸の静脈と合流して血液と混ざっていきます。その乳びが胸管から漏れ出すことで乳び胸が発生するのです。
原因としては、心臓病や腫瘍(リンパ腫、胸腺腫)、フィラリア症、先天的な奇形、血栓症、横隔膜ヘルニア、肺葉捻転、外傷(事故や落下、けんか)などが考えられます。検査をしても原因の特定に至らない「特発性」の乳び胸と診断される場合もあります。
症状
初期は無症状の場合が多く、進行してから呼吸器の症状が出てくる場合が多いです。呼吸器の症状が出た段階では、すでに大量の乳びが胸にたまっている場合が多いです。呼吸器の症状としては、咳が出たり、大きな呼吸(努力性呼吸)になったり、口を開けて呼吸をしたり、悪化すると舌が青紫色(チアノーゼ)になったりします。遊ばなくなって食欲低下する場合もあります。
対象
好発犬種はアフガン・ハウンドと柴犬です。心臓病を発病して静脈圧が高まっていたり、フィラリア症を患っている犬や、リンパ腫や胸腺腫などが胸部に発生している犬も注意が必要です。
予防、治療
決定的な予防法はありません。早めに発見して悪化する前に治療することが大切です。
腫瘍や心臓病などによって引き起こされた二次的な乳び胸には、そちらに対しての治療を優先的に行います。原因の特定に至らない「特発性」の場合には、内科治療(栄養管理、胸水抜去、薬物治療)や手術を検討しますが、完治しない場合もあります。また、低脂肪食や中鎖脂肪酸トリグリセリドを多く含んだ食事にし、乳びを作られる量を減らす方法もあります。
薬物治療はルチン(リンパ管の浮腫抑制)、ソマトスタチン、オクトレオチド(リンパ管の流量抑制)などがありますが、どれも決定的な治療にはなりません。呼吸が苦しく緊急性がある場合は、緊急回避として胸腔に針を刺して溜まった胸水を吸引します。繰り返し胸水を抜く必要がある場合は、胸腔にチューブを装着する手術を行うことがあります。ただ長期的に乳び胸水を抜き続けることは、その中に含まれる脂溶性ビタミンや脂質、たんぱく質、水分、ミネラルの大量喪失につながります。やがて免疫力の低下や栄養不足、脱水を招き、全身状態が悪化していきますので、犬の全身状態をふまえた上で下記の手術が可能な場合はそちらを検討すると良いでしょう。
手術を行う場合は、胸管を結紮して胸への乳びの流出を減らしたり、乳び槽(お腹にある乳びの溜まり場)を切開し胸管への乳びの流れを減らしたり、心膜を切除して静脈圧を下げて静脈へのリンパ液の流れを促したりします。以前より手術成績は向上しており、これらを組み合わせた手術を行って治癒率は9割弱であったというデータもあります。乳び胸が慢性化していると、手術のリスクも高くなるので、費用的な面や犬の体力的な面を踏まえた上で検討しましょう。
監修
白神 久輝 先生
埼玉県草加市にある「ぐぅ動物病院」の院長。2005年4月の開院以来、大学病院や専門病院と連携をとりながら、常に最先端の技術や機器を導入しており、飼い主の方にもわかりやすい説明でサービスを提供し続けている。また病気になりにくい体づくり(予防、日常ケア)のアドバイスも積極的に行っており、地域のかかりつけ医・中核病院として親しまれている。
※「病気事典」には「アクサダイレクトのペット保険」の補償対象外の病気や治療内容も掲載されていることがあります。
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補償対象外の病気については、「契約申込のご案内(兼重要事項説明書)」をご確認ください。 -
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