ピルビン酸キナーゼ欠乏症(欠損症)は遺伝性の疾患で、ピルビン酸キナーゼという酵素が足りなくなり、赤血球が破壊されて貧血が起こる病気です。ピルビン酸キナーゼが足りなくなると、なぜ貧血するのでしょう?ピルビン酸キナーゼは、体内のエネルギーの保存(ADP→ATP)に働きかける酵素です。その酵素が足りないとATPの産生が減少してしまいます。ATPが減少すると赤血球から水とカリウムが逃げてしまい、赤血球が脱水し、縮み、キレイな球状の形を保てなくなり、やがて壊れてしまいます。赤血球はどんどん骨髄や脾臓などで作られますが、壊れるペースが速いために追いつかず、貧血してしまいます。犬では非常に稀な病気です。
発症した犬は生まれながらにピルビン酸キナーゼが足りない状態なので、貧血状態が続いており、体が貧血に慣れているため、急性の貧血だと苦しくなるほどの状態でも、症状を出さず耐えている場合もあります。貧血以外にも、赤血球の急速な入れ替えによって鉄分の処理が間に合わず、肝臓に鉄分が沈着して肝硬変がおこる場合があります。犬では骨の内部(骨髄)の細胞が減少して固く線維化する場合もあります(骨硬化症、骨髄線維症)。
先天的な病気なので、若齢で発症する場合が多いです。症状が現れた段階でかなり重症なので、普段から口の粘膜や舌の色が異常に白っぽくないか、疲れやすくないか、よく観察してみましょう。異常がある場合は、貧血になる理由を、ほかの病気がないかも含め、調べてみるとよいでしょう。
口の粘膜や舌の色が薄く白っぽくなる、食欲低下、疲れやすく運動を嫌がる、呼吸や脈が速い、赤茶色の尿(ヘモグロビン尿)をするといった症状が出ます。
症例が少ないため、好発犬種は特定できませんが、バセンジー、ウエスト・ハイランド、ホワイト・テリア、ビーグル、ケアーン・テリア、ミニチュア・プードル、ダックスフンド、チワワ、パグ、アメリカン・エスキモードッグなどの犬種で報告があります。
予防法は残念ながらありません。遺伝性の疾患なので、発病した犬を繁殖に使用しないことで発生率が下がると思われます。症状が出る前に、定期検査で貧血が起きていないか確認をすると良いでしょう。貧血が起こる理由も多数あります。この病気を第一に疑うより、貧血の理由を総合的に探していくと良いと思います。
また遺伝的な病気のため、完治が期待できる治療法はありませんが、症状に応じて安静をとりつつ、貧血や呼吸状態を緩和するための対症療法(輸血や酸素化など)がとられます。
白神 久輝 先生
埼玉県草加市にある「ぐぅ動物病院」の院長。2005年4月の開院以来、大学病院や専門病院と連携をとりながら、常に最先端の技術や機器を導入しており、飼い主の方にもわかりやすい説明でサービスを提供し続けている。また病気になりにくい体づくり(予防、日常ケア)のアドバイスも積極的に行っており、地域のかかりつけ医・中核病院として親しまれている。
※「病気事典」には「アクサダイレクトのペット保険」の補償対象外の病気や治療内容も掲載されていることがあります。
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